第23話 ナイーダにできること

 その夜、セトとの約束などすっかり忘れ、慌てて帰宅したナイーダは今度は家の書庫にこもりきっていた。


「ナイーダ様、暖かい飲み物をお持ちいたしました」


「ああ、ばあや。ありがとう。そこにおいてといてくれ。あとでゆっくりいただくよ」


 心配そうに覗き込んでくるばあやに、ナイーダは必死に笑みを作る。


「あの、何かお探しでしょうか? お帰りになってからずっとここにおられますけど、この時期はまだ冷えますし、そろそろお休みになられては……」


「大丈夫だってば! ばあやは心配性だなぁ。あ、なぁ、ばあや。俺、薬草についての知識をもっと深めたいんだけど、どこにそれらしい本があるかわかる?」


 できるだけわかりやすいのがいいんだけど……と、付け加え、ナイーダはまた辺りを見渡す。


「ナイーダ様が薬草に興味を?」


「うん、ちょっとな」


「なんでもお申し付けくださればこのばあやが薬草でも何なりと準備しますのに……」


「うん、でも、俺もその知識がほしいんだ。できたらばあやの知ってることも教えてくれたら助かるし……」


 昼間からずっと考えてはいたが、少しでもアルバートの助けになりたかった。


「俺、いつもばあやが俺に作ってくれる疲労回復の飲み物を作れるようになりたいんだ」


 だからナイーダは真剣だった。


「な、ナイーダ様がそのようなことに興味を持たれる日が来るなんて……」


 同時にばあやが大きく目を見開き、大袈裟に口元を覆う。そしてわっと泣き始める。


「ば、ばあや、いったいどうし……」


「いえ、ばあやは嬉しいのでございます」


「嬉しい?」


「しばしお待ちくださいませ。すぐにとってまいりますわ」


 ナイーダが求めていた本をあっという間に探し当ててきてくれたばあやが何か勘違いしていたが、ナイーダはそれにも気付かぬくらい必死にその本に目を通していた。


 ばあやが優しく瞳を細めたことをナイーダは知らない。


 それからだった。


 毎日ナイーダが怪しい色の飲み物を出仕する際に持参するようになったのは。


 そしてそれを目の前で瞳をキラキラと輝かせてその効果を待とうとする彼女のために、涙目になりながらもアルバートが飲み干すようになったのもそれから少しあとのことであった。

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