第19話 兄上とよく似た別のぬくもり

 兄上……


 夢の中で、ナイーダは思わず呟いていた。


 兄上、どこなんだ?


 会って、会って話がしたいのに……


 最近になって、まったくといっていいほど、夢の中に現れてくれなくなった兄上の想像をし、そして、差し出された別の手を取ろうとしたナイーダははっと目を覚ました。


 夜はまだ明けておらず、暗い夜空が広がる遠くの方で静かに鳥の鳴き声が聞こえた。


「兄上……」


 ……聞きたいことがあるのに。


「俺は、男だよな……」


 自問自答してしまう。


「あいつに、気を取られてしまうのも、兄上と重なるからだよな、絶対……」


 そうだ、とナイーダは拳を握る。


「絶対そうだ」


 とうしたらいいのわからない。


 これからは少しずつ遠征も増えてくるこの時期に、こんなにも不安定でいてはいけない。


「絶対そうなんだよ……」


 それ以外の理由があっていいはずがない。


「俺、どんどん弱くなっていく気がする」


 女という別の自分の影が少しでもちらつくたび、そう感じた。


 もう忘れよう。


 ナイーダは握った拳で顔を覆う。


 ぐっと瞳を閉じると涙が出そうだった。


 どんどん自分が、自分でなくなるような気がしてとても怖かった。


「兄上……」


 あの手を取ったら、俺はどうなってしまうのだろうか。


 きっと、自分が自分のままでいられなくなる。それだけはわかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る