第15話 アルバートの姫君
「一瞬、見とれた」
淡々と告げる彼に、少し驚いたように、それでも楽しそうにリリアーナもにっこりした。
「あら、今日は珍しく素直ね、アルバート」
そしてまたクスクス笑う。
そんな彼女に気にせず、アルバートはまた真剣な表情で続けた。
「最近、ふとした時に思うんだ。ああ、きれいだな、って」
「うんうん」
二人のときは、姫君と護衛としての関係よりもかつての二人に戻ることが多い。
「うんうん。それでそれで?」
「あ、いや……」
そこでようやく自身が口にしていることを意識してか、気まずそうに口元を覆うアルバートにリリアーナは優しく触れ、静かに頷く。
「今さらじゃないでしょ。もともと美しい人だとわたくしはずっと思っていたわ」
「そんなこと言ったら、絶対三日は無視される」
「それはつらいわよね」
うんうんわかるわぁ、と同調しつつもリリアーナはどこか嬉しそうだ。
「アルバートはもっとぐいぐい行くべきよ。でないとあなたたちはずっとこのままよ」
「あいつの秘密を知った上でどうしろと……」
あいつの苦しみを理解してやれる数少ないの存在なのに、と無意識なのか彼は漏らす。
「このままでいいの?」
「……」
いいわけないだろ……と、リリアーナの耳に微かに聞こえる声でアルバートは項垂れる。
「なんで男なんだろうって、いつも思ってるよ」
あいつは、あんな格好をしてむさ苦しい男たちと戦っているべき人間ではないのに。
「もっと、あるべき姿があるだろうのに」
空を見上げた彼の横顔はあまりにも切なげで、リリアーナは何だかとても胸が痛く……なるはずが、自然と口角が上がるのを感じた。
遠くを見つめる彼の瞳には、美しく輝く黒髪をなびかせた、一人の少女の姿が映っていた。ずっと変わらない彼だけのお姫様だ。
「ねぇ、アルバート」
「はい」
ぶっきらぼうな返事に思わずリリアーナは笑ってしまう。
こんなにも余裕のないアルバートは珍しい。まるでいつもと反対だ。
「あなたはいつもわたくしにアドバイスをしてくれるけど、わたくしからも一ついいかしら」
「え?」
「あんまりほっといているといつの間にか別の人間にとられちゃっても知らないわよ」
その言葉にはっとして目を見開いた彼は気まずそうに顔をしかめた。
一瞬の沈黙の後、彼はふうと息を吐いて続ける。
「あいつが俺を見ることなんてありません」
平然を装い、いつもの顔を取り繕い、にっこり微笑み返した彼はきっぱりそう言った。
「目の敵にしてる時くらいですよ。あいつから熱い視線を感じられるのは」
悲しそうに肩をすくめながら。
「あら、それが快感だからいじめてばかりいるわけ?」
「意地悪ですね、姫は」
ハハ、と声を漏らして笑った彼はいつもの彼に戻っていて、マリーネはそんな彼に静かに身を寄せた。
「あなたの幸せを願っているわ、アルバート」
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