第14話 謎と男とナイーダの涙
後ろから響く自分の名を呼ぶリリアーナの心配そうな声も聞こえなくなった頃、ナイーダは自分のしたことに対しての罪悪感を冷静に受け止めながら重くなった足を一生懸命前に前に運んでいた。
明らかに自分の態度の悪さには気付いていた。リリアーナには全く悪かった点がなかったのに。それなのに、ナイーダはあんな失礼な態度をとった。
大切で大切で、命をかけてでも守りたいと思っていたのリリアーナに、あんなつらそうな顔をさせてしまった。
「お、俺……姫に向かって……最低だな……」
姫に向かってだからというわけではない。
一人の人間として、最悪の行動をとった。
(でも……)
先程ひどく痛んだ胸に両手を当てる。
(でも……)
優しく微笑む、アルバートの笑顔が目に浮かんだ。
(だって、アルが……)
この痛みは、何と呼べばいいのだろう。
わからない。
とても苦しく、痛い。胸の痛み。
あまりの痛さに涙が出た。
「バ、バカ。泣くなっ!」
近衛隊の一員として戦っている時に傷だらけになったり返り血を浴びたり、血塗れになることだってある。
決してリリアーナやメレディスに見せれる戦い方をしているわけでもない。心を殺さねばやってられないときだってあり、感情を見せないその姿に『氷の副隊長』と言われたこともあった。
そんな時も涙は一度だって見せたことない自分が、こんなことで泣くなんて……
「くそっ!」
心が体に追いつかなくて、混乱したらどんどん止まらずに涙が溢れてきた。
「だから俺はいつまで経っても弱いままなんだ。いつまでたっても……」
いつもすぐに涙が出てくるし、今日だってこんな意味のわからないことで泣いている。
「くそ、泣きやめよ!」
(だからいつまで経っても中途半端のままなんだよ!)
ナイーダは止めどなく溢れてくる自分の涙にいらだちを感じながらも、それでもなぜかチクチクと痛む胸の痛みにまた泣いた。
「我慢しなくていいと思うよ」
だから、突然聞こえた謎の人物の声に気付かず驚いた。
目の前には男らしい印象のアルバートとはまた違った、どちらかといえば美しいと思えるような端正の顔立ちの青年が静かに微笑んでいた。
美しく長い銀髪を一つにまとめている。
「あ……あ……」
み、見られた!と、あまりの不覚さにナイーダは全力で逃げ切ってしまいたかった。でも、
「つらい時は我慢するものじゃない」
そう優しく細められた広い海を連想させる青い瞳を見つめていたら、逃げ出すわけにはいかなかった。
「何があったかは知らないけど、泣きたいときは泣いてすっきりした方がいい」
そんな言葉に、やっぱりまた涙が溢れた。
「お……俺……」
気持ちを言葉にしようとしたけど、うまくできなかった。
「いいんだよ。気がすむまでここにいるから」
肩に置かれた彼の手は暖かく、ナイーダは初対面に会った人物でありながら、彼の前で思いっきり泣き続けた。
「……ぐっ」
「うん」
「最低だ……」
羨ましいと思った。
あの、可愛くてきれいなリリアーナ様が。
あの完璧で美しい笑顔にアルバートは微笑みかけられていて、それを凄く嬉しそうに返していて……。
そんな当たり前なことが、普通にできる、リリアーナ様が羨ましかった。
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