第9話 アルバートの恋人
翌日、寝不足で頭の痛さに悩まされつつも休んでなどいられないと意地でも出仕したナイーダは、貴婦人どころか近衛団にまで面白おかしく騒がれていた、ある噂を耳にした。
「ナイーダ、聞いたか? アルバートに恋人がいたんだ!」
何となくこうなることはわかっていはいたため覚悟はしていたが、それでも耳を塞いでしまいたくなった。
仲間たちが楽しそうに騒ぎ立て、貴婦人方が嘆きの声を挙げるたびにナイーダはさらに頭を抱えたくなった。
「大変な騒ぎね」
だから、この人も笑っていた。
「あなたは見ることができたの? ナイーダ。」
ナイーダの目の前に座り、優雅に紅茶の入ったティーカップを口にし、楽しそうに微笑んでいるリリアーナも、だ。
知ってるくせに!と、ナイーダはどうしても彼女にだけは余裕を失った様子を見せるわけには行かないとリリアーナから顔をそむける。
「この城のどこかに連れ込んでいたそうだし、彼女の所から戻ってきた彼は何も羽織っていなかったそうよ。一体相手はどんな女性なのかしら」
あの堅物が、信じられないわね。と、貴婦人たち同様の好奇の目をしていた。
「リリアーナ様、それよりも本日のご予定なのですが……」
ナイーダはそんな彼女に構わず、平静を装い続けようと努力した。
「あら、ナイーダ。あなたは気になら……」
「なりません」
言い終わる前にきっぱり言い放ったナイーダに、やっぱりリリアーナは興味深いといった表情を向けて口元を抑えた。
「夜間の業務があったというのに、女と遊んでいるようなバカに気をとられている暇はありません」
もとはといえばあれはナイーダのせいなのであるが、それでも散々ぼろくそに言われた後だったので、彼に対してのナイーダの怒りは絶好調に達していた。
「では、俺はこれで」
口早に一日の流れを説明し、未だにアルバートのことで頭がいっぱいと言わんばかりの表情をしているリリアーナに背を向け、ナイーダはできるだけ早くこの場を去ろうとした。
「ああ、そうだな」
だから気配もなく忍び寄られた後ろの声にナイーダは飛び上がった。
「危機感もなく夜に徘徊していた怪しい女のことなんて、気にしない方がいい」
「あら、噂をすれば!」
リリアーナはぱっと頬を綻ばせ、今にも質問攻めにしたくてたまらないと言った表情でナイーダの後ろに立ち、相変わらずの不敵の笑みを浮かべているアルバートに駆け寄った。
通り過ぎる際に、彼の瞳がちらりとナイーダを捉え、不覚にも頬を染めたナイーダはその場から動けなくなった。
「こんな噂、信じても何の得にもなりませんよ、姫」
そう言ってリリアーナに合わせ、楽しそうに笑うアルバートの言葉がナイーダをまた複雑な気持ちにさせた。
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