エピローグ

エピローグ -1-


 真白は目覚ましが鳴る前に自然と起きてカーテンを開けた。懐かしい自分の部屋で、生まれ育った環町を眺める。丘の上は見晴らしがよく、結界を築く列車の定時運行が見える。堕ち神の脅威が去った、幽霊のいない町。アーケード街のドーム状の屋根、葵の好きなババがあるビル。

 希衣の家は丘の麓だったっけ。


 いつまでもそうして環町に目を滑らせていると、廊下から物音がしてくる。みんなが起き出してきたのだ。真白は大きく伸びをして、布団から素足を出す。ひんやりとした冷気に竦みながら、スリッパを履いて部屋を出た。身支度を済ませて一階に下りると、食卓に朝食を並べている母が顔を上げた。

「おはよう、真白。よく眠れた?」

「うん、いっぱい寝たよ」

「葵を起こしてきてくれる? 朝ごはん冷めちゃうから」

「分かった」


 真白は階段を上り、葵の部屋をノックする。

「葵ー、起きてる?」

 返事がないので真白は「開けるよ」と断りを入れて部屋を覗く。

「なんだ、起きてたの。朝ごはん冷めちゃうよ」

「――うん」


 すっかり着替え終わった葵は目を眇めて真白を見ている。その顔が少し嬉しそうに見えて、真白は「何?」と聞き返した。葵は面白がるように「別に」とはぐらかして部屋を出た。真白はその背を追う。階段を下りながら、朝食のいい匂いに性急な腹がグゥと鳴る。腹の音を聞いたのか、階段の途中で振り返った葵が真白を見上げた。

「今日の放課後、ババ行くけどくる?」


「! うん。久しぶりだなぁ」

 ババのプリンは真白も大好きだ。ほろ苦くて甘いプリンを食べながら、大人なジャズに身を沈めると、どこよりも人心地が付けるのだ。

 真白はババへ行く楽しみを心の柱にして、学校に行く密やかな憂鬱さを消し飛ばした。

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幽霊環町 吹野こうさ @Advance_2

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