第15話 相棒
「一年しか経ってないのに懐かしいよ」
「私もですよ殿下」
誰もが同じ思いを抱いているらしい。
遠くに陸地の影が見え始めると、ワラワラとデッキに
人が集まって来た。
とは言っても、ここは一等貴賓室。
部屋続きの専用テラスの二人は、ゆったりと寝椅子から
陽炎の様な虚ろいを眺めている。
彼らは少し、いや、かなり損をした。
何倍もその景色が素晴らしく
波切りの音を間近に聞き、水しぶきを浴びて船の
心を
最も胸の
しかしそれはまた、庶民の特権でもある。
オバルト王国第三王子グリードとヘンベルツ公爵家公子カーライルの二人。
この一年、精霊院で寮生活を過ごし、期末休暇で帰って来た。
「新しい家族に会うのは楽しみかい?」
「気にはなりますね」
「十二支の契約者か、どれ程の者であろうか」
「想像も付きませんよ」
彼らがイリスの存在を知らされたのはムーランティスに向かう船の中であった。
郵便精霊によって届けられた手紙を読んで、最初はとても信じる事は出来なかった。
趣味にのめり込んだ公爵閣下が、とうとう正気を失ったのかと疑った程だ。
しかし国王からも同様の手紙が届いたので、
どうやら本当の事らしいと顔を見合わせたものだ。
それから定期的に様子を伝える知らせが届き、
詩会の一件には二人して腹を抱えて笑った。
そうだ、確かに楽しみに違いない。
故郷を目前にして、真っ先に思い浮かぶくらいには。
精霊院では二人一組で協力しながら課題を消化する。
これは大聖女エルサーシアが精霊王ルルナと共に在り、
常に離れずラッキーペアーとして振舞った事に由来する。
グリードとカーライルは互いに相棒として認めあい、
上位五組の位置を維持している。
「陛下は私の妃にと考えているようだね」
「おや、イザベル殿では無く?」
「はは、わざわざ婚約者選定を延期した上に、
毎回手紙でイリス殿の話をされては、さすがに気付く」
「なるほど、うちと同じと言うわけですね」
「なに!ヘンベルツ公もか?」
「えぇ、こちらはもっと直接的に、イリス殿を口説けと」
「なんと、精霊院の相棒はライバルであったか!」
「こればかりは共有出来ませんからね」
「強敵が現れたものだ」
「同感です」
帰って来たよと汽笛が鳴り響く。
***
今日の王宮は大忙しの
午前中はマレーナ王女主催のお茶会。
午後からはグリード王子を筆頭に精霊院留学組の帰還式典と
それに続く晩餐会。
もう大変!
「マレーナよ、なにも今日で無くても良いのではないか?」
「今更ですわ陛下」
この勝気な第一王女がどうにも苦手なんだよね、フリーデルは。
ガンガン言い返してくるの。
「ワシ、国王なんだけど・・・」
みたいな?
「だからなに?」
的な?
晩餐会でグリードとイリスの初顔合わせ。
雰囲気を盛り上げて良い感じの所で二人だけのお話しタイムを作って~
「おやおや、随分と気が合うようだねぇ」
頃合いを見て、もうYOUたち付き合っちゃいなYo!
って思ってたのに、お茶会をぶち込んで来やがった!
しかも!念のためにと外して置いた婚約者候補たちを呼んでだ!
しれっと晩餐会の招待客名簿に捻じ込みやがった!
邪魔する気かっ!
何考えてんだ!こいつはっ!
「ば、晩餐会まで出るのは大変であろう?」
「あら、それはイリス公女も同じでしてよ?」
「あ、いや、彼女は----」
「私、そう言うのは
「な、何がじゃ?」
「女の名誉など、どうでも良いと?」
「そのような事は申しておらぬ!」
「言ったも同然で御座います!」
いっつもこーなっちゃうんだよねぇ~
んで、最後は言い負かされちゃうの。
婚約者候補は四人。
貴族院から正式に通知されているんだ。
そこにイリスを加えると言うならまだしも、
手続きもせずに横入りさせるなんて
笑い者になってしまうではないか!
どれ程に傷つくか分かっているのか!
そんなこと許せるものか!
女を
いよっ!マレーナ!カッコイ~~~!
「そ、それは・・・」
「女の
「い、いかにも・・・」
「ならば宜しゅう御座いますね?」
「も、もちろんである・・・」
ねっ!
たじたじフリーデル~
でもなぁ~イリスを正式な婚約者候補には出来ないのよ。
抜け駆け無しの勝負がサイモンとの約束だもんね。
二人が好き合ったなら良いけど、候補者にするのは反則!
「なるほど、ではこう致しましょう」
「ど、どうする気じゃ?」
「イリス公女も含めて花嫁候補は五人、そして」
「そして?」
「花婿候補も五人揃えて下さいませ」
「そんな型破りな!」
「型をお破りなったのは陛下で御座います」
「う、う~~~~~む・・・」
「決まりですわね!そろそろお客様がお見えになる頃、
私はこれで失礼致します。
花婿候補の人選はお任せ致しますわ、陛下」
さっと
向かって行った。
いやぁ~
「前代未聞である・・・」
ラブリ~カップル 5×5!
頑張れよっ!フリーデル!
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