第13話 ターターリニの丘

王都から馬車で3日程北上すると、小高い丘が波打つ丘陵きゅうりょう地帯が広がる。

ターターリニと呼ばれるこの地域を治めているのが、

イザベルの父ダリル・クレイトン侯爵だ。


「先ずは第一歩ですな」


夏の間の避暑地として宮廷きゅうてい貴族の別荘が並ぶターターリニ湖。

クレイトン家の領邸もここに在る。


「そちらの準備も宜しいですかな?大司教殿」

とどこおりなく」


時期外れの閑散かんさんとした別荘地を訪れているのはオットー・ゲーリング。

精霊教オバルト教区の区長、大司教枢機卿だ。


「しかし聖姉妹とは考えましたな」

「猊下のお知恵はモスクピルナスの泉の如くですよ」

「まったく、まったく」


イリスを旗印に考古学運動を進めようとする平凡の友。

その対策として教会は聖姉妹制度の導入を決めた。

聖女と寝食を共にし、重責じゅうせきを担う聖女を精神面で支え、

姉妹の契りを結ぶ者だと言う。

姉妹候補として精霊院に入学し相応しい成績を収めた者の中から、

聖女が指名する形式になるらしい。

入学の条件は各国の王が推薦をした者であれば、

身分や精霊のランクを問わない。

明らかにイリスをターゲットにしたものだ。


「上手く乗って来るかのう?」

「喉から手が出るくらい欲しがった晴れ舞台ですぞ。

飛びついて来るに違いない」

「それこそ藪蛇やぶへびになりませぬか?」


イリスが活躍すればするほど考古学は注目されてしまう。

元も子もなくなるのではないか?


「ふっふっふ、ご安心めされ、仕掛けは上々にて」

「いやはや、怖い怖い」

「なんの、我らは世の平穏を望むのみ」

「違いない」


***


良~く考えたら公爵邸から出るのって初めてじゃね?

敷地内に庭園やら池やら林やら遊歩道やら植物園やら

博物館やら図書館やら音楽堂やら武道館やらぁ・・・

はぁはぁはぁ・・・息が続かない・・・

とにかくだ!

わざわざ外に出る必要なんか何所に有る?

買い物?

そんなもん業者が山の様に商品を持って来て、

ずらっと並べて、そん中から選り取り見取り深緑だよ!


友達も居ないしさぁ~

オリビエ?

あれ友達かなぁ~?

最初は遠巻きに見てるだけだったけど最近やたらと

話し掛けて来る様になったのよねぇ。

前から興味津々だったのは確かだね。

今もほら、ちゃっかりと横に座ってる。


「まぁ!海で泳ぐのですか?」

「え、えぇ・・・」

「海の水は塩辛いと聞きましたわよ?」

「塩辛いですねぇ」

「川の水は塩辛く無いのに、何故海は塩辛いのかしら?」

「さぁ?何故でしょうねぇ・・・」


知るかい!そんな事!てなもんだわさ~

まぁ、説明するとだね。

昔は川の水もしょっぱかったのよ。

何億年も昔はね。

もう殆ど雨に洗い流されて、それが溜まって海になったってわけよ。

どうして雨はしょっぱく無いの?とか言い出しそうだから、

教えないけどな!


どうでも良いけど、お前近いよぉ~

顔見て話そうとしたらキスしそうになるじゃんかよぉ~

もうちょと離れろよぉ~


「そう言えば雨も塩辛くは無いですわねぇ?どうしてかしら?」


言ったぁ~!言いやがったぁ~!面倒くせぇ~!

思いついた事が口と直結してるタイプだ~!

そんなんで大丈夫か?

お前も公爵家の姫様だぞ?


「はぁ、どうしてでしょうねぇ・・・」


出がけには小雨が降ってたけど止んだね。

シュワシュワ~って雲が溶けて行くよ。

雨上がりの枝葉がキラキラして、今日は日和ひよりになりそうだね。


(そろそろ貝拾いの季節だなぁ~)


あぁ~潮干狩りだね~

朝早くから浜へ行って桶いっぱいに獲って帰ったね。

さすがにもう出来ないよ?

住む世界が変わっちゃったからね。


「ほら!御覧になって!虹ですわよ!」

「まぁ!本当!奇麗ですわねぇ」


何所に居ても虹は一緒だ!

何所で見ても美しい。


そうこうしてるうちに着いたよぉ~

クレイトン邸。

侯爵家として堂々たるお屋敷だね。

小っちゃく感じるのは感覚がマヒしてるからだよ?

ヘンベルツ邸が規格外なんだからね。


「お待ちして居りました、イリス殿下、オリビエ殿下。

ダリル・クレイトンが娘イザベルに御座います。

お初に御目通り叶いまして光栄に存じます」


いやぁ~しっかりしとるのぉ~

同じ11歳とは思えないねぇ。

顔が引きつってるよ?イリスちゃん。

さぁさぁ、ちゃんとご挨拶しようね。


「サイモン・ヘンベルツが娘イリスに御座います。

本日はお招き、嬉しく思います」


そうそう!良く出来たね!

立場はこちらが上だからね。

丁寧ていねいながらもへりくだってはならないよん!

オリビエも卒なくこなしたね。

その辺はちゃんとしてるんだぁ、見直したよ。

御免ねぇ~ダメな子かと思っちゃった。


テラスから差し込む日差しが心地よい客間がうた会の会場。

六人のお嬢様方が揃った。

公爵家二人、侯爵家一人、伯爵家三人。

華やかだねぇ~


軽くお茶をたしなんで銘柄の当てっこしたり、付け合わせの

お菓子を褒めたり、なごやかだねぇ~

ほっとしたね!イリスちゃん!

意地悪な娘は居ないようだねぇ。


「では皆さま、今日のお題で御座いますが私から宜しいでしょうか?」

「えぇ、お願い致しますわ」

「先ほど木漏れ日の向こうに虹が架かっておりましたの」

「あぁ!私も見ましたわ!美くしゅう御座いましたわねぇ」

「最初のお題は虹に致しませんこと?」

「それは良いお題ですわ!」

「では私からご披露させて頂きますわ」


先ずはホストからだね。


「花の香りに誘われて

 丘の小道の行く先に

 空を見上げる人ひとり

 虹を眺めて何思う

 この足音にも気づかずに」


「まぁ~素敵ですわぁ~」

「もしや恋人同士かしら?」

「イザベル様の御心を詠まれたのかしら?」

「ふふ、御想像にお任せ致しますわ」

「では、丘と言うのはターターリニの?」

「んまぁ~~~うらやましゅう御座いますわぁ~!」

「殿方は鈍感ですものね~」


んまぁ~いっちょ前に~ガキんちょがぁ~

女の子はマセてるからなぁ~


「さぁ!次はどなたが?」

「私、イリス殿下のお詩が聞きとう御座いますわ!」

「んごっ!わ、私?」


油断大敵!

危なかったねぇ、もうちょっとでのどを詰まらせるとこだったよ。

お茶もおちおち飲めないね。


「ぜひお聞かせ下さいませ!殿下!」

「え?え?え?」


『私の出番ね』

(頼むわねリンゴちゃん!)

『まっかっせっなっさぁ~い』


「で、では(行くわよっ!リンゴちゃん!)


シュイーヒエ~ル 水平  シェーンナ~ロゥ 線の 

ミューコ~ル 向こう  ニャオワッハ~ には 

ニジェール 虹  ナオ フワッシャイーガル 橋が 

アロ~ンニュード~ルあるのだろう

ダリーマオ 誰も  シュイ~ナリ~ 知らない 

ミューラァ~イ 未来  ナオ シェ~キャーリ~ 世界 

シューニャ~ンワ~ル 少年は  シャーガーシュ 探し 

モティ~モトゥ~ル 求める 

ヒュイ~ンリョーリィ 広い  ワウミュー ナオ

ニャウミャー 波間  クワ~リャ~ン から 

ドゥーラーガル 誰が  ユンブトゥ 呼ぶと 

ヤイーナォダ~ラオ言うのだろう

キュインボーラン 希望  ナオ ヤォーメ~ン 夢 

ミュインニー 胸に  デァ~ティ~ル 抱いて 

ヒュインティ~ル ひとり  トゥビーニュ~ディ~ルゥ~ 旅に出る 


リンゴちゃぁ~~~~~~~~~~ん!

それ日本語~~~~~~~~~~~~!

発音ムリだからぁ~~~~~~~~~!

言語的にムリだからぁ~~~~~~~!


それ海のポセイドンのパクリ~~~~!


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