第12話 グイグイ来る~

公爵家の姫となって1年。

毎日が勉強勉強~

高位貴族としての礼儀作法やら、家門の歴史。

他家との相関関係。

いやもう、頭パンパン!


中でも苦手なのは貴族特有の言い回しだね。

例えばお茶会などで「素敵な髪飾りで御座いますね」と

御髪おぐしの際立つ指物さしもので御座いますね」では

言葉に含まれる意味が違うんだってさぁ~

え~?どっちも一緒じゃぁ~ん!


最初のは髪飾りだけを褒めてるでしょう?

つまり~

「アンタ、そのアクセぜんぜん似合ってないわよ~」

って意味なんだって!

んで後のは髪を褒めてるから「とっても似合ってますよ!」

なんだって!


だから間違って使うとエラい事になるんだってさ。

何それ~~~

怖いんですけどぉ~


更にそこからが大事!

ヘンベルツ家ともなると上から数えた方が早いくらいの

大貴族だけど、同格の家柄も当然あるよね。

会場で鉢合わせするとマウントの取り合いになるんだって!

言葉の応酬おうしゅう

嫌味を言われたら嫌味で返すのが流儀。

適当にやりあって、頃合いを見て「では、ご機嫌宜しゅう」。

それが出来ないと教養が無いって言われちゃうんだってさぁ~


行きたくない!行きたくない!地獄だ!修羅場だ!

お茶会なんだからお茶を楽しもうよぉ~

高級なお菓子とかも出るんでしょう?

味わかんねぇ~よぉ~


田舎にいる時はの~んびりしてたよ~

同じ子爵家とか男爵家とかのお茶会は和気藹藹わきあいあいだよ?


「イリス様、これ私が焼きましたのよ」

「まぁ!アグネス様が?」

「お口に合いますかしら?」

「とっても美味しゅうございますわ」

「本当?わぁ!良かったぁ!」

「言葉が戻ってるわよ?」

「あっ!」

「私たちには似合いませんのことよ~」

「ですわねぇ~おほほほほほほほほ」

「いやですわぁ~おほほほほほほほ」


なぁ~んてやってたのにねぇ~

こーゆーのってさぁ、もっと早い時期からの教育で

細かい所にセンサーが働くような人格形成が必要じゃん。

イリスちゃんには無理だよぉ~

褒められたらそのまま受け止めちゃうよぉ~


ダンスのレッスンもあるけど、これは楽勝!

だってこの世界の社交界のダンスは三種類しかないもの。

オクラホマミキサーとマイムマイムとジェンカ!

上は王室から下は準男爵家まで一緒!

この三曲が代わりベッタンで延々と続くの。


もちろんちゃんと歌うよ?


マァ~イ♪マァ~イ♪マァ~イ♪マァ~イ♪

マァ~イム♪エッサッサ~♪


パンッ!ヘ~イッ!

  パンッ!ヘ~イッ!

    パンッ!ヘ~イッ!

      パンッ!ヘ~イッ!


もう言わなくても分かるよねっ!

エルサーシアの仕業しわざ

第二次転生の時にやりやがったのよね。


サーシアは2回転生してるの。

最初は1万2千年前。

5千年の大平和時代の基礎を作った。

その後、大災厄で文明が崩壊して一からやり直し。

んで2千年前に、もう一度転生したの。

それが今の時代の始まり。

そん時に「高貴なる舞踏」とか言って広めたのよね。


精霊院入学のめどは立ってないけど、

社交界デビューはしないとね!って事でシゴかれてるのよ。

この一年、社交界はイリスの噂でもちきり!

今か今かと手ぐすね引いて待ってるのよ。

あぁ~怖ぁ~い。


***


「あら!イリス様!御機嫌よう!」


御機嫌よう!やあるかいっ!

お前、待ち伏せしとったやんけ!

一日の稽古が終わり、本館から屋敷に戻る途中で捕まった~

公爵家次男カイトールの娘オリビエ。

イリスと同い年の11歳だよん!


「御機嫌よう、オリビエ様」

「丁度良いところですわ、お話がありましたの」

「まぁ、何で御座いましょう?」


ほう!だいぶ姫様っぽくなって来たじゃん。

仕草も受け答えも優雅だよぉ~ん。

コーデリア夫人の教育の賜物だね~


「クレイトン家のイザベル様から詩会うたかいの御招待が来てますの。

イリス様も是非にとのお話しですのよ」


ん?

どっかで聞いた名だなぁ~

なんだっけぇ?

あぁ、そうだ!確かグリード王子の婚約者候補の娘だな!

そーいえば来てたなぁ、招待状。


「そのお話しでしたらご辞退させて頂こうかと思っておりますの」

「あら、何か不都合でもありまして?」

「いえ、そう言うわけでは・・・」


行きたくねぇ~

詩会?

お題を出されて即興で詩をむ?

なんじゃそれ~

貴族大喜利じゃぁ~ん

わざわざ恥を搔きに行くようなもんだよ~


「イリス様とご一緒出来るなんて、私とっても楽しみにしておりますのよ?」

「それは嬉しゅうございますが・・・」

「ねぇ?宜しゅうございましょう?」

「はぁ・・・」


ずいぶん押しの強い娘だなぁ。

目力もすげぇ~な!


「衣装の色を揃えませんこと?お好きな色は何かしら?」

「特には・・・」

「青色が宜しいですわね!」

「はぁ・・・」


グイグイ来る~

もうすっかりオリビエのペースだな。


「今から作らせて間に合うかしら?いいえ!間に合わせますわ!」

「あ、あの・・・」

「直ぐに手配して頂戴!」「畏まりましたオリビエの侍女よ!!」

「ちょ、ちょっと・・・」


あちゃぁ~優雅さがどっか行っちゃったよぉ~

オロオロしてるよぉ~

薄っすいメッキだったなぁ~

ペロンって剥がれちゃった・・・


「さぁ!忙しくなって来ましたわねっ!

イリス様!当日はお迎えにあがりますわね!」

「オ、オリビエ様・・・」

「では、御機嫌よう!」

「ご、御機嫌よう・・・」


押し切られてしもうた~

うわぁ~気が重い~

青い衣装なんて有ったかなぁ~?


「ど、どうしよう、マリアン・・・」

「ど~しましょう・・・」


二人とも詩会なんて経験した事ないもんね。

見当もつかないよ。

今なら本館にまだコーデリア夫人居るかな?

戻って聞いてみる?

早くしないと帰っちゃうよ?


「や、やっぱり無理よね・・・断ろうかしら・・・」

『良いじゃないの、行きなさいな。たまにはお出かけしなさぁい』

「そんなこと言ったって詩会なんて・・・」

『大ぁい丈夫よぉ、私に任せなさい』


おっ?随分と自身満々だねぇリンゴちゃん。

詩心うたごころなんてあったの?


「任せるって、どうするの?」

『私が言った通りに、そのまま復唱しなさい』

「本当!助かるわ!リンゴちゃん!」

「リンゴ様は詩がお得意なのですか?」

『私に詩が詠めるわけないわよ』

「え?」


は?

何言ってんの?

意味わかんないんですけどぉ~


『サーシアは詩の名人だったのよ!側で聞いてたから

全部覚えてるわ!どんなお題でもへっちゃらよ!』


サ、サーシアの詩!

いや、それはぁ~


「わぁ!エルサーシア様の詩を?それは凄いわね!」

「心強いですね!」

『大船に乗ったつもりでいなさいな!』


めっちゃ不安なんですけどぉ~~~~~~!

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