第11話 母から子へ

「申請が却下されたじゃと!」


フリーデルから呼び出されて王宮に参内したサイモン。

王の口から聞かされたのはイリスの麗人申請を教会が却下した、

との報告だったの。

リンゴちゃんを上級精霊とは認めない、爬虫類は下級だってさぁ。

国王の推薦状を添えてもなお、頑として認めない。


「十二支精霊などは存在しないの一点張りじゃ」

「あのクソ坊主共めが!」


どーゆーわけか教会は伝記や古文書の記述を認めないのよ。

大魔法などは想像の産物で、昔も今も変わりは無いって

そう主張してるの。

いや、教会上層部は知ってるんだけどね本当は。

でもそれを認めちゃうとエラい事になるのよね。

だってそうでしょう?

なんで今の聖女様は大魔法が使えないの?

ねぇ、なんで?どうして?ってなるじゃん!


それは教会にも分からないのよ。

なんで使えないんだろう?

いや、そんな事よりも聖女の権威に傷を付けるわけにはいかない!

伝説は本当だった!昔は大魔法が使えた!今の聖女様って偽物?

そうなるのを恐れているの。

2千年続いた平和が崩れてしまうかも知れない。


徐々に法力が弱くなっている事には気付いているのよ。

もしかしたら遠い未来には無くなっちゃうかも?

それも予想している。

だからってどうしろと?

どうやったら法力を強く出来るの?

どうしようも無いじゃん!


だから余計な事はしないでよねっ!

取り敢えず平和なんだから良いじゃん!

家のローンだってあるし、子供の教育費だって掛かるのよ!

考古学?知らないわよ、そんな事!

オタクの道楽で私の人生設計の邪魔しないでっ!

ってのが本音なのよ。


さぁ!話の続きだけどね。

麗人として認められないと精霊院に入れないのね。

サイモンとフリーデル、平凡の友の夢は考古学を学問として

世間に認めさせる事なんだ。

おとぎ話なんかじゃない!本当にあった歴史なんだ!

大魔法の復活。

その手掛かりを探すのが考古学の意義なんだ!


その為にはイリスを入学させて、その実力を見せるのが一番!

なんせ世界中から王侯貴族の子女が集まるんだもの。

宣伝効果は抜群だよね~


諦めかけていたんだ・・・


文献ぶんけんを読みあさっても、遺跡を調べ尽くしても、

決定的な証拠が見つからない。

ひとつでも良い、古文書に記述されている超魔道具が見つかれば。

その破片でも良いのだ!


超魔道具。

それは聖女と人型精霊の法力によって無から生じる。

今でも魔道具はあるよ。

例えば照明器具がそうだね。

木の板でも何でも良いから呪文を刻み付ければ光る。

魔道具師ならば誰にでも出来る魔法だ。


そんなもんじゃ無い!

超魔道具はレベルが違うよ!

映像を録画再生するものや、魔法を閉じ込めたカプセル。

果ては人間を複製する箱なんかも有ったらしい。

大聖女エルサーシアとその娘達に至っては、

どんな遠くへでも一瞬で行けるドアを作れたなんて記述もある。


どこにも無かった・・・

発掘調査で見つかるのは古文書や小物ばかり。

それでも貴重な資料だけど、肝心の物は・・・


何時しか探すのを止めた。

たまに同好会で集まり考古学談議に花を咲かせるだけ。

ただのオタクに成り下がっていたんだ。


そこへ現れたのが~

我らがイリスちゃん!

忘れかけていた情熱がメラメラと燃え上がったのよ。

なんとしても世間に認めさせてやるってね。

そうすれば多くの人材が考古学の門を叩くだろう。

自分達が死んだ後も研究は続く。

そしていつかは大魔法を復活させる日が・・・

そう思っているの。


いやぁ~悪いけどねサイモンちゃん。

そんな単純な問題じゃ無いんだよ。

まぁ心意気は良しとするよ。

取り敢えずはしっかりとイリスちゃんをサポートしてね~


「フランソワ殿は何と?」


サイモンの妹、大聖女代理フランソワ。

実務のトップが教皇きょうこうなら、教会の象徴が大聖女代理だ。

彼女にも協力を依頼しているの。


「どうもこうも無いわい!」


フランソワからの返事は素気すげ無いものだった。

聖女はあくまでも民衆の心の支えとして存在するのであって

教会の運営に口を挟むべきでは無いと。


「そろそろ家督かとくを譲って引退したらどうかとかしおった。

領地でのんびりと養生ようじょうしろとな。

まだ耄碌もうろくなどしとらんわいっ!」


「ふぅ~~~む・・・どうしたものよのぅ・・・」


***


ムーランティス大陸。

四つの国が連合し帝国を形成している。

精霊教会総本山もこの大陸に在る。

皇帝は代々、カイエント国のレイサン家が帝室を継いでいる。

エルサーシアの直系だってのが表向きね。

たちが悪いのは当事者たちがそう信じてるところね。

確かに血筋はそーかも知れないよ。

レイサン家の血筋だよ。


でもね、聖女の血統ってのは母系で継承されるんだよ。

だって精霊遺伝子はミトコンドリアの中に在るのよ?

母から子へ受け継がれるの!

父親から子供へは遺伝しないの!

お前んとこ途中から男系継承だんけいけいしょうに替えたじゃん!

くだらない相続争いでさぁ。

その時点で終わってるの!

ば~か!ば~か!ば~~~か!


それだけならまだマシだったけど、自分を正当化する為に

世界中の王室に男系継承せよと圧力を掛けたんだ。

教会もグルになってね。

臣下の貴族達もそれにならった。

それが数百年続いた結果が聖女の消失なんだよ。

いやもう、ビックリしたよ!


なんか最近、聖女の数が減ったなぁ~

あれ?今年はひとりも聖女が生まれないぞ?

あれよあれよとゆー間にゼロになっちゃった~

どーするよぉ~


まぁ~なっちゃったもんは仕方が無いよねっ!

取り敢えず、ウータンとチンパンの精霊を人型に偽装して

誤魔化すかぁ~

てへっ!


これが真相だよ!

いやぁ~ちょっと様子見し過ぎたなぁ~

出来るだけ自主性を尊重してって思ったのよね。

甘かったよぉ~

結局は大規模なメンテナンスが必要になっちゃった。


そのムーランティス大陸精霊教総本山で、今、

教皇はじめ大司教だいしきょう枢機卿すうききょう、その他大幹部が集まって緊急会議の最中。


「十二支精霊に間違い無いのか?」

「確認中だ」

「何故今になって・・・」

「理由など分かるものか!精霊に人のことわりなど通じぬ!」


いやいや、お前たちの尻拭いしてんだろうがよ!


「認めぬ!断じて認めぬ!」

「だからと言って放っては置けぬぞ?」

「さよう、手は打たねばならぬ」

「しからば何とする?」


「余に考えがある」

「おぉ!ぜひお聞かせ下さい、猊下げいか

「野に放っては却ってわざわいの種となろう」

「では、どうせよと?」


「放てぬならば、飼えば良い」

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