第9話 幼馴染

「陛下、ヘンベルツ公が参内さんだいしておられます。

陛下にお目通りをとの事で御座います」

「おぉ、サイモンが!通すが良い」

「御意のままに」


(サイモンと会うのは半年ぶりか?

互いに忙しい身だからな。

あまり時間は取れぬが、顔を見るだけでも良い)


オバルト国王フリーデル。

サイモンとは同い年の幼馴染だ。

祖父母が兄妹なので、はとこの関係になるね。

とぉ~っても仲良しなの。


「ご機嫌麗しゅう存じます陛下。急な参上をお許し頂き

恐悦至極に御座いまする」

「止めよサイモン、歯が浮きそうじゃ」

「はっはっは、ケジメで御座います」

「ケジメはもう済んだであろう?いつもの通りに致せ」


サイモンの顔から笑顔が消え、握り締めた拳から

その緊張が伝わる。

何事か?


「十二支精霊の巳、リンゴが降臨した」

「!!!・・・なんと申した?」

「紅玉の如き深紅の目、炎の揺らめく舌、あおき妖光を放つ白い体、

そして喉元の八角紋。

間違いない」


「まさか!まさか!何所じゃ!何所にる?

連れて来て居るのじゃろ?早う連れて参れ!

いや、こちらから参ろう、何所に控えて居る?」


のんびりと座ってる場合じゃない!

立ち上がって今にも走り出しそうなフリーデル。

実はね、フリーデルも考古学オタクなのよ。

若い頃はサイモンと一緒に遺跡を巡っては

夜がけるのも忘れて語り明かしたの。

先々代の王、つまりおじいちゃんね。

そいつが超のつく考古学マニアでさぁ~

サイモンもフリーデルもそれに感化されたのよ。


フリーデルって名前は古文書に出て来る古代オバルト王国の

中興ちゅうこうと言われてる人物でね。

エルサーシアとも親交が深かったとされてるの。

実際にそーだったんだけどね~


「慌てるなフリーデル、ここには居らぬ」

「なんじゃ!どう言う事じゃ!らすで無いサイモン!」

「詳しく話そう」

「うむ、聞こう」


実は斯々かくかく然々しかじかと、今日の降霊の儀で目撃した事を語った。


「子爵家の令嬢に・・・」

「あぁ、誰も気づいて居らぬ」

「そうであろうな、我ら平凡の友だからこそじゃ」


考古学仲間で結成した同好会、平凡の友。

名前の由来は古文書のひとつ「精霊伝」の一節いっせつ

<そは精霊ミサ、マコ、ミコの三柱みはしら

互いに意気投合いきとうごうよし、同志のちぎりを交わしやしろを結ばん。

名を平凡の友と申す>


具体的に何を意気投合したのかは分からないが、

精霊同士が同好会を結成したらしい。

それにあやかろうじゃないか!って事なのよ。


いやぁ~それがさぁ~

あの子たちは見た目が地味でさぁ~

派手派手の他の子に比べたら目立たなかったのよぉ~

そんで、グループを組んで活動したら人気が出るかも?

って結成した同好会で発行してた同人誌が「平凡の友」なのよ。

地下アイドルみたいなもんね。

まぁ、結構なファンが居たよ。


名前はサーシアに教えて貰った有名雑誌「平凡パンツ」と

「主腐の友」をくっつけたの。

教えない方が良いかな?

知らぬがほっとけって言うもんね。


「可哀そうに叱られて泣いておった。

知らぬとはいえ畏れ多い事じゃ、あの愚か者め。

周りの目が無かったら切り捨てておったわ」


ハロルドの行状ぎょうじょうを聞いて、フリーデルもまた憤慨ふんがいした。


「して、どうするつもりじゃ?」

「我が公爵家に迎え入れようと思う」

「妾妻にするのか!おぬし!」

「まさかっ!そんな鬼畜では無いぞ!養女じゃ!」

「そ、そうか、いやすまぬ」

「今日はその許可を頼みに来たのじゃよ」


王族の縁談には王の許可が必要なの。

ヘンベルツ公爵家はその一員なのよ。

子爵家の娘を養女になんて普通は許可が下りない。

ましてや下級精霊の契約者など言語道断ごんごどうだんよね。

だから根回しに来たわけ。


「いや、待て待て、それはズルいぞサイモン。

王室にこそお迎えすべきではないのか?」

「それは無理じゃよ、元老院や教会を説得出来まい」


そして王室の縁談には元老院と教会の許可が要るの。

イリスとリンゴちゃんの価値が理解出来るのは、

平凡の友の会員くらいのもんだからねぇ。

おとぎ話を誰も本気にはしないよ。


「十二支の契約者ならば大魔法も使えるのでは無いか?

それを皆のまえで披露すれば良いではないか!」

「それはまだ分からぬ、何せ今朝の話しじゃ。

今しがた家人にコーランド子爵家の調査を命じたばかり。

取りも直さず、そなたに報告をとな」

「そうか・・・」


「じゃがのう、あの様子では早急に手を打たねばマズい。

どこぞの成金に下げ渡すやも知れんて」


あ~良くある話だよ。

平民の金持ち連中が貴族の子女を欲しがるんだ。

子爵家では珍しいけど、男爵家あたりはたまに下級精霊が

降臨するからね。

それに目を付けて大金をはたいて身請けするんだよ。

貧乏貴族なら借金返済の為に、そうで無くても厄介払いと、

応じる家は多いんだ。


「そんな事をさせてはならぬ!」

「じゃから私が動いておるのじゃ、時間は掛けられぬ。

当家の養女ならば私の意思と王の許可があれば成る」

「ん~~~致し方なしか・・・」

「先ずは、かの娘を救うが先決ぞ」

「あい分かった!許可しよう」


それからサイモンは貴族院長官を呼び出したんだ。

飛んで来たよぉ~

国王と公爵閣下が揃って呼んでるって言われて、

もう汗びっしょり!

祝賀会にコーランド子爵家の招待が決まった。


「ところで、公爵家の姫ならばグリードの妃に相応しいのう」

「いやいや、それではイザベル殿が可愛そうじゃ」

「まだ候補じゃ、決まったわけでは無い」

「向こうはその気じゃぞ?」

「それはあちらの勝手じゃ」


侯爵家公女イザベル・クレイトン。

何人か居る婚約者候補の最有力だね。

イリスと同じ10歳。

確かオオカミの精霊と契約した筈だよ。


第三王子グリードは12歳。

側室の産んだ子だね。

そろそろ婚姻の話しを進めようかな?って年齢。

今年から精霊院に入学するの。


精霊院ってのはね、貴族の子女で上級精霊と契約した者が

集められて、魔法や学問を研鑽けんさんする全寮制の学び舎だよ。

聖地モスクピルナスの在るムーランティス大陸に在るんだ。

精霊教会総本山の隣ね。


あぁ、この世界の地理は、まだ説明して無かったね。

この世界全体はイ・デアル・アーって言うの。

失われた太古の言葉で「空と大地と海」って意味ね。

オバルト王国の在る大陸はファ・ジンムーラ・デアル。

「精霊と黄金の大地」。


あと二つ大陸が在るんだけど、それはまた今度ね。

いっぺんに説明するのも聞くのも面倒くさいじゃん。

どうせ今聞いても忘れちゃうでしょう?


「当家にも丁度良い年頃の男子が居る」

「カーライルか?」

「さよう殿下とは精霊院の同期じゃの」


サイモンの孫カーライル12歳。

同じく今年から精霊院へ行く。


「どっちが勝つか賭けるか?」

「何を賭ける?」

「そなたの持って居るダモン戦記はどうじゃ?」

「な!ならばそちらはロイペの欠片を出せ」


どちらも貴重な考古学資料だね。

オタクにとっては掛け替えのない宝物だよ。

そして互いに相手側に賭けるんだ。

どっちが勝っても引き分けになるから禍根が残らない。


「勝負は、かの娘が精霊院に入学してからじゃ」

「しかし下級精霊では入学出来んぞ?」

「特別枠で捻じ込む、協力して呉れるな?」

「勿論だ」


「抜け駆けは無しだぞ!良いな!」

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