第8話 姫様だってさ~
「ひ、広いお部屋ね・・・」
「そ、そーですね~・・・」
「寝台は?寝台が無いわ」
扉を開けると廊下の三倍はありそうな毛足の長い
フッカフッカの絨毯が敷き詰められたリビング。
慣れて無いから、つんのめりながら入ると、
もうここで寝ても良いんじゃねぇか?
ってくらいのデッカいソファ~!ファ~ファ~。
おぉ~こだまがしたねぇ。
エッグい値段するだろーなぁ~って調度品が、ずらっと並んだ飾り棚やテーブル。
特注で作らせたんだろうなぁたぶん、知らんけど。
玄関か?って思うくらい大きな窓の外は広~いバルコニー。
何だぁ?ここはぁ~。
「寝室はこちらで御座います、姫様」
イリス付きの侍女として配属されたコーデリア夫人が奥の扉へと
言っとくけど伯爵夫人だからね。
バリバリ高位貴族だよん!
侍女の中でも古株でね。
3年前までは筆頭侍女として奥向きを取り仕切ってたの。
後進に道を譲ってね、今は相談役みたいな立場なのよ。
仕事は程々で良いよぉ~
ノンビリしててねぇ~って感じ?
ヒマを持て余してた所を公爵直々に頼まれてね。
「お任せください!」って張り切ってるの。
「し、寝室!別の部屋があるんですか!って姫様?」
「はい、公爵様より本家の姫として接するようにと」
「イ、イリスで良いですよぉ~」
「
「じゃ、じゃ、じゃぁせめてお嬢様で・・・」
姫様なんて呼ばれたらヘンな所が
ついさっきまで下位貴族の娘だったんだからねぇ。
昼飯食って、茶ぁ~飲んで、一息ついたらお姫様だよぉ。
サイモンは手続きをしに王宮へ行っちゃったよ。
家令に任せときゃ良いのにねぇ。
分からない事はコーデリアに聞けってさ。
教育係も兼ねてるんだ。
「姫様、ヘンベルツ公爵家は王家に
他家の者からは殿下と呼称されるお立場なのです。
そーなんだってさぁ~
大貴族は違うねぇ~
田舎の子爵家なんて、めっちゃ中途半端だよ。
イリスだって自分の部屋は有ったけど広めのワンルーム?
そんな感じだったもの。
調度品つっても町の店で売ってるような物だしね。
今朝まで居た宿の部屋の方がよっぽど立派だったよ。
「マリアン、そなたも
「
「マ、マリアンもですか?」
「当然で御座います」
(姫様か・・・えらい事になったな・・・)
朝、馬車に乗る時は
これが運命だと言うなら受け入れようと。
どんな目に遭おうとも貴族としての誇りは捨てまいと。
「養女として迎え入れる」
そう言われて驚いたけど、イマイチ実感が無かったのよ。
へ?どーゆー事?よーじょ?
ポカァ~ンって口が開いてさぁ、間抜けだったなぁ~
んでぇ、姫様って呼ばれてやっと実感が湧いて来たの。
(公爵家の娘になったって事?)
だからそーだって言ってるじゃん!
まだボケてるわね。
まぁ~その内に慣れるわさ~
どやさ~
リビング、寝室、書斎、浴室、化粧室、衣裳部屋、
ガラ~ンと何も無い部屋、侍女の控室。
トイレもあるよん!
いやぁ~こんなに要る?
どうせ使わないよねぇ~ってこの時は思ったの。
「他のお部屋には、どなたがお住まいでしょうか?」
最初に訪れた所は公爵邸本館で、主に仕事用なんだって。
舞踏会なんかもそこでするそうだよ。
貴賓室とかも在る。
住宅は少し離れた所に幾つか屋敷が建っている。
引っ越しの挨拶をした方が良いのかな?
そーゆーのした事ないから分かんないねぇ。
後でコーデリア夫人に聞いてみよう!
「このお屋敷には姫様だけが、お住まいになられます。
以前は大奥様が使っておられました。
長らく閉めておりましたが、姫様にと公爵様が」
「え!私だけなんですか!」
「さようで御座います」
うひゃぁ~!
お屋敷ひとつ、まるまるイリス用だってさ!
10年前に死んだ公爵夫人が使ってたんだって。
サイモンは貴族には珍しく妾妻を持たなかったんだ。
正妻との間に男子が二人。
それで充分だと言ってね、周りがいくら勧めても
首を縦に振らなかったんだって。
すんげぇ~愛妻家だったの。
「えっと・・・ずっと私だけって事ですか?」
「もちろんで御座います」
「こんなに沢山のお部屋があるのに・・・」
「一階は住み込みの使用人が入ります。
二階はゲストルームとなっております。
この三階が姫様のプライベートエリアで御座います」
コーデリア夫人の話しではイリス専属の使用人を手配しているところなんだって。
身元調査とか色々あって、もう少し時間が掛かるそうだよ。
手廻しが早いねぇ~
前もって進めてたなこりゃ。
降霊の儀から今日で15日目。
コーランド子爵一行は、あす王都を後にする。
まさかこんな事になってるなんて想像もしないよね。
「失礼致します、コーデリア様」
この子はアニーって言うの。
イリス付きになった女中さん。
男爵家の三女でね、14歳になったばかりなんだ。
「アーデレー卿とブランダール卿が御着きになりました」
「そうですか、こちらへ参るようにと」
「畏まりました」
「お客様でしょうか?お出迎えしなくても良いのでしょうか?」
「お客様では御座いません、姫様の護衛を務めます騎士で御座います」
「ご!護衛!騎士!」
「さようで御座います」
公爵家は自前の騎士団を持ってるの。
公爵邸の警備とか公爵家の護衛とかね。
こーゆーのって信用が一番大事だから、代々公爵家に仕えてる家門の
子弟で構成されてるのよ。
だいたい500人くらいの規模だね。
領地には軍も有るよ!
初級だけど攻撃魔法が使えるんだ。
攻撃魔法は厳しく制限が掛けられていてね。
使用するには祭壇で制限解除の儀式をしないと駄目なのよ。
初級だとあんまり強力な魔法は使えないね。
剣の腕はまぁまぁかな?
弱くはないけど、めっちゃ強いわけでもないな。
「今日より姫様の護衛を務めます、アルバート・アーデレーに御座います」
「同じくアンソニー・ブランダールに御座います」
「よ、よろしくお願い致します・・・」
他にも3人の護衛が付いて5人体制で警護にあたる。
昼も夜もね。
隊長がアルバートで副長がアンソニーだよ。
『頼りなさそうねぇ』
(そーかなぁ~?強そうだよ?)
『アンタの方が強いわよ』
(え?私?)
『試しに右のやつ指差してドンって言ってごらんなさいな』
(どうなるの?)
『吹っ飛ぶわ』
「そんな事できないわよっ!」
声に出ちゃってるよぉ~
「如何なされましたか?姫様?」
「いえ!なんでもありません!」
マリアンの肩がプルプル震えている。
笑っちゃダメよ?
オシリつねっときなさぁ~い。
***
夕方に帰って来たサイモンと一緒に晩餐。
一族へのお披露目を5日後にするんだって。
「私のような者を娘にして、皆さまご不快ではないでしょうか?」
「異を唱える者は来るなと申してある。姫は心配せずとも良い」
「本当に宜しいのでしょうか?」
「いずれ詳しく話すがの、これは私の使命なのじゃよ」
「使命・・・で御座いますか?」
「そうじゃ、天命なのじゃよ」
「・・・」
『ジーサンがそー言ってるんだから良いじゃん』
「リンゴちゃん、失礼よ」
「いや、かまわぬ、かまわぬ、精霊に人の常識は通じぬ」
『その通りよ』
「じゃが私はまだ50じゃ、ジーサンは酷かろう?」
『老けてるわね』
「そうかのぅ?」
『ヒゲ剃りなさいよ』
「自慢のヒゲなんじゃが・・・」
『年寄りくさいわよ』
「ふむぅ~」
イリスちゃんヒヤヒヤ~
なんだこりゃ?ってくらい濃い一日がやっと終わった。
お風呂に入って寝間着に着替えて、ふぅ~~~っとひと息。
「そろそろお休みの時間で御座います姫様。
私は隣の部屋に居りますから、何かありましたら呼び鈴を鳴らして下さいませ」
「お願いよっマリアン!二人だけの時はいつも通りにして!」
「ですが・・・」
「お願い・・・」
「わかりました、お嬢様」
「ありがとう、マリアン」
「ふふっ、大変な一日でしたね」
「大変にも程があるわよ~」
「でも私は嬉しいですよ」
「そうね、良い事よね」
「えぇ」
「おやすみなさい、マリアン」
「おやすみなさいませ、お嬢様」
おやすみ~イリス~
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