第27話 婚約公認いただきました
馬車から降りる際にベルナルド様が先に降りてその後でエスコートする話だったのだが、私を抱きかかえたまま馬車を降りたことで周囲の視線を掻っ攫っていった。
別の馬車に乗っていたマクヴェイ公はそんな私とベルナルド様を交互に見て「うちの息子もやるな」と満足そうだった。
ここは窘めてほしかったのですが。
「べ、ベルナルド様……その、やっぱり、じ、自分で歩きますぅ」
「………(か、かわいい。あれ、なにこの可愛い子。余計に離したくない。いや、でもシャルが嫌がるなら……もしかして強引なところがいやだったか? それとも注目を浴びたことで俺と一緒に居たくないとか?)」
蚊の鳴くような声だったと思うがなんとか口にできたのだが反応がない。
恐る恐る顔を見ると、ベルナルド様はあからさまに嫌そうな顔をしている。ぶすっとしていたが渋々私を下ろしてくれた。あまりにも名残惜しそうだったので、「帰ったらベルナルド様の気が済むまでいいですよ?」と呟いたのがいけなかった。
鋭い眼光が増し、悪巧みをするような顔になる。
(悪カッコイイ!)
「(いじらしいシャルが可愛すぎる。あと嫌われてなくて本当によかった。独占欲丸出しでかっこ悪い奴だとか思われかねないから気をつけなければ……)ん、では、さっさと要件を済ませて帰ろう」
「は、はい」
無表情で言葉遣いも淡々としているものの、私の手を掴んで気遣ってくれることがとても嬉しい。王城の侍女や衛兵からも微笑ましい視線が向けられているのは気のせいだろうか。
王城の一角にある第三宮殿に入ると既に国王陛下及び、王太子アルバート殿下、魔法学院教頭ローマン、魔法学院理事長ハイド卿、その息子のルディー様が揃っていた。
ダンスフォール会場のような大広間に通され、大きな窓と薄いカーテンがあるだけで殺風景な所だ。
「(やはりハイド公爵家の屋敷の打診を断って正解だったな)シャル、俺の傍から離れないように」
「は、はい。(そ、それにしてもこんなに早くディフラの攻略キャラと顔を合わすなんて! ゲーム画面で見るのとは全然違う。というか顔面偏差値が高すぎる! それに神々しいほどの存在感、オーラはさすが王子。ルディー様の存在感がすごい。でも一番はやっぱりベルナルド様だわ)」
「さて、マクヴェイ公から話は聞いているが、マクヴェイ公の遠縁シャーロット・ラッセル・カルーヤとして《疑似種子》及び協力の申し出を承諾したと聞いたが──相違ないか?」
「はい。国王陛下、この国を長年苦しめて来た《呪い》の解除を微力ながらお役に立てるよう精進いたします」
「うむ、そなたの決意に感謝する。……何か望みがあるのなら叶えよう。それだけのことをそなたは担ってくれるのだから」
「恐れ多いです」
一周目の私は何を願ったのだろう。その時と今では状況が大きく異なるだろうけれど、私の中でもし褒美を頂けるのなら有り難く頂いてしまおう。
お義母様も昔、同じようなことを現国王様に言ったらしい。
「……もしお許しができるのなら、ベルナルド様との婚約を王家の方々がお認めになっていただけないでしょうか」
「なっ」
「おお、それはいい」
「父様! シャルも褒美がそれでいいのか」
ルディー様は顔を顰め、アルバート殿下はニコニコとしている。当の本人であるベルナルド様が一番困惑して私に聞き返してきた。
私を保護するときに形だけでも婚約者としてマクヴェイ公爵家に向かい入れてくれた。一周目で私とベルナルド様が結婚したから、その流れで婚約者だという位置づけになっていたとしても――。
キッカケはなんであっても、ベルナルド様が一緒にいてほしいと言うのなら正式な婚約者として隣にいたい。だからこそ私は胸を張ってこう答える。
「もちろんです」
「──っ、(シャルの言葉は嬉しい。それこそ飛び上がるほど。でも、……あのことを話さないで、受け入れていいのか。いや、受け入れる資格なんて俺には……)」
「ふむ。婚約か」
「それと魔力暴走を止めるためご助言を頂けそうな
厚顔無恥とも呼べる願いに、笑い飛ばしたのは国王陛下だった。
ハイド卿やローマン教頭は苦々しい顔──というより「褒美はそれでいいのか?」という困惑に近い顔をしていた。
「くくっ、マクヴェイ公のご子息との縁談は地位の確保のためか?」
「いえ。ベルナルド様に惚れましたので一緒になりたいと思いました。ただこの世界では私の出生や存在をよく思わない方も一定数出ると思いますので、国王陛下の
「ふむ。……マクヴェイ公爵家が我が国で何を担っているか、そなたは知っているのか? それを承知で嫁ぐと?」
ベルナルド様の表情が僅かに強張ったのが見えたが、私は口元を緩め微笑んだ。
そんなことで私の気持ちが分かるわけがない。
「はい。ベルナルド様をお一人にしないと約束もしましたので」
「シャル……」
「なるほど。して、聖女候補と、
異世界転生者の可能性があるから──って言えればいいのだけれど。さすがに難しいのでそれらしい言葉を見繕う。
「この世界において聖女は魔力暴走を抑えることに精通していますので協力関係を築きたいのと、アルバート殿下の婚約者であるベアトリーチェ様には淑女としての嗜みを教わりたいのです。なにせ私は異世界転移した者ですので、この世界の常識や令嬢としてのマナーを身につけるのは必要でしょうしできるのなら同世代がいいかな、と」
「ふむ、なるほど」
「マクヴェイ公」
「報告書を送ったとおりですよ、陛下。それに婚約も無理強いではないですし、息子も乗り気です。そうだろう、ベルナルド」
ベルナルド様は国王陛下に向かって胸に手を当てて「はい。そうです」と簡潔に肯定した。隣にいたローマン教頭やハイド卿は「政略結婚とは」とか「茶番」とぼやいていたが、それを聞いたからか、それとも元々告げるつもりだったのかベルナルド様は言葉を続ける。
「自分が彼女に求婚を申し込みました。この世界で幸せにすると誓ったので害虫が騒がぬよう陛下からの許可を頂けないでしょうか」
「言いおる。……そなたの父も昔、私に同じことを言ったものだ」
「ハハハッ、そりゃあ妻を守るためなら陛下だって脅しますよ」
(脅っ……)
マクヴェイ公は国王陛下と旧知の間柄だからなのか気さくに接している。というか若干どころか不遜な態度を取っているが、国王陛下はまったく気にしていなかった。
傍にいるハイド卿やローマン教頭の顔が引きつっているが私は何も見ていない。見ていませんとも!
「まったく、親子揃って王族をなんだと思っているのだ」
「命を賭けるにふさわしい君主と思っておりますぞ」
「都合が良いことを。……まあ、相思相愛であるのなら下手に首を突っ込めば馬に蹴られてしまうな。二人の婚約を認めよう。書面も後でマクヴェイ家に送るとして、聖女と令嬢の件は日程を改めて場を設けよう手配する」
「ありがとうございます!」
これでヒロインと悪役令嬢に接触するキッカケが作れた。
魔法学院に入学してから接触する手もあったが、できるだけ早めに味方は増やしておきたい。死亡率97パーセント鬱ゲー世界と称されたディフラの理不尽設定をなめたらいけない。石橋を叩きまくっても足りないぐらいだ。
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