第13話 私を殺すのは君、君を殺すのは。
昨日食べたものをそらんじるような気軽さで、彼は自分の家族を殺した話をするので、
ルディールートではヒロインとの好感度が一定以上満たさなかった場合、ストレス負荷により魔力暴走を起こし
そしてルディールートでのバッドエンド回避必須条件は、彼の家族の生存。
(たしかルディールートのバッドエンドは……家族を殺害したあと邪魔者を全て排除しようと画策、様々な事件を起こしてヒロインに迫り、監禁あるいは殺害しバッドエンドとなる)
それを防ぐため私は攻略キャラ全員に
それに当時ルディー様のご家族が亡くなったという訃報は聞いていない。噂一つ起こっていないことに違和感を覚えた刹那、自分が記憶を上書きされたと話していたことを思い出す。
「まさか……」
「そう。記憶の上書きをしたのさ。君たちの認識では私の家族は生きている、とね。もっとも私が家督を継ぐまでは妹も父も病に伏せっており養生すると周囲に根回しもしておいたので案外誰も気付きませんでしたよ。ベルナルドとアルバートは勘づいていたけれど、私を追い詰めるよりも君を婚約者にするため方々を駆け回っていたみたいだったかな。私は家族の死の偽装に奔走して、ベルナルドは君を手に入れるため奮闘した。それが計画の大きな歪みであったけれどね」
「──っ!」
ゆっくりと近づくルディー様の勿忘草色の瞳は、酷く濁っていた。顔を背けようとするが、その前に片手で顎を掴まれ強引に唇を奪われる。
「んんっ!」
抵抗しようと彼の舌を噛みつこうとした瞬間、彼は私の下唇を噛んだ。鉄の味が口に中に広がり吐き気がしたが、身じろぎすることしかできない。
濃厚なキスが気持ち悪くて嫌なのに、唇を離したルディー様は満足げに微笑んでいた。
恍惚とした表情は、どこか夢うつつといった感じだ。
「あははははっ、やっぱり起きていた方がいい反応をしてくれるね」
(ベルナルド様以外の人とキスを……ううっ)
ただただ唇を重ねたことが悔しくて、悲しくて、胸が引き裂かれるように辛い。
今すぐにでも唇を拭って感触を忘れたいのに、それすらできなかった。
「ねえ、シャーロット。……今からでも私を選んでくれないかな?」
「お断りします」
被せるように私は答え、それに対して彼は大きく溜息を吐いた。
「……もし私を選んだのなら生かしてあげてもよかったんだけど、しょうがないですね。このままベルナルドへの復讐に君を最大限使わせてもらうとしよう」
「ベルナルド様に、何をするつもりなの?」
「
「私が、ベルナルド様を殺す?」
ふとルディー様の口元に黒紫色の蔦のような紋様が生じていた。口だけではない。両手にも広がって──唐突に彼の指先は炭化して崩れていった。
「え、なっ……肉体が炭化するなんて」
「ベルナルドだけじゃない。
「そ、そんな。私は
「君の意志ではね。でもすでに君の中にある《世界樹の種》は芽吹いて成長という名の暴走を始めた。もう君の制御下にない。君が死ぬまで魔力を持つ全てのものから
そう言ってルディー様は崩れていく体をうっとりとしながら眺めている。痛覚が感じられないのか彼は崩れていくことが本望だという感じで、それはディフラのルディールートにもない結末だった。
ルディー様はもう片方の手で私の頬を撫でる。
「ああ、貴女に殺されるというのも案外悪くない」
「──っ、《ベル・モナムール》! お願い止まって!」
必死で
「どうして……!」
「《世界樹の種》は確かに
「──なっ」
あまりにも衝撃的すぎて、脳天を思い切り殴られたようだ。全ての原因が分かったというのに、それはあまりにも酷い真実だった。
「じゃあ、旦那様の姿が見えなくなって、声も聞こえなくなったのは……」
「そう、芽吹き急成長するため君の負の感情を食らい、さらに負荷をかけるためにベルナルドの姿を見えなくして声も届かないようにした。普通なら発狂して壊れるのに君は意外と頑丈で鈍かったね。結果的にベルナルドをもっと苦しめることができたのだから、見ていて楽しかったよ」
ルディー様は口元を歪めて笑った。
狂気じみていたが、それとは別に推し量れない悲しみを抱えているようで、ゲームシナリオでルディー様が壊れていくのと酷似していた。
ルディー様を狂わせてしまった存在。
復讐。その相手は
「……どうして、そこまでベルナルド様とアルバート殿下を憎むのですか?」
「そうだね……。昔から恵まれていたベルナルドとアルバートが憎かった。両親に愛情を注がれるのが当たり前で、人望もあり、何より思い人と結ばれる。それを当然だと勘違いして、いつまでも愛情が自分にあると余裕を見せて、信じて、蔑ろにして愚かだろう。大切な者を失う失望、奪われる絶望を存分に味わって、後悔して壊れて死んでもらわなければ気が済まない」
(二人を憎んでいた理由は家族や配偶者に愛されたいという感情が出発点だった……?)
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