第12話 止められなかったルディーのヤンデレ化

 

 哄笑し声を荒げてルディー様は告げた。

 今までに見たことがないほど彼は生き生きとしている。

 唐突に《DEMISEディマイズ・ OF FLOWERSオブ・フラワーズ》のバッドエンドルートに突入したかのような展開に困惑してしまう。


 バッドエンドは全てアイリスとベアトの三人で回避したし、魔力暴走による死の満開デス・フルブルームも、過度なストレスによる人格変化によるヤンデレ化も阻止したはずだ。

 私が何かヘマをしてしまったのだろうか。


「……私がルディー様を?」

「ああ、そうさ! 途中まで私の計画は完璧だったのに! の記憶を塗り潰し、気付かれないよう髪の色を灰色と青い瞳に変えたのも、前国王陛下に頼んで架空の貴族クリスティ家を一つ作り出したのも全部、私の計画だったのですよ」

「え……」


 淡々と語り始める言葉はおおよそ耳を疑う言葉だった。

 それなら私の実家の両親は?

 転生したときの記憶は──すべて偽りのものだった?

 困惑する私のことなど気にせずにルディー様は言葉を続ける。


「この世界で《赤い果実》はもちろん《魔法の種子》を持たずに生まれる者はいない。転生者であってもそれは同じだとベアトリーチェとアイリスで確認した。転移者ならば、と異世界転移召喚を行って来てくれたのが、君なんだよ。全くの魔力無しならば、この《疑似種子》いや世界樹の種を体内に摂取することで魔力吸収マジック・ドレインを駆使し、周囲の魔力暴走を止められるかもしれない。私と父の理論は君によって立証された」

「……それじゃあ、私は?」

「その通り。私だけではなく前国王陛下が望んだことで、その計画に自分の目論見を上乗せしたって感じですかね」

「……ルディー様の……もくてき?」


 鼻歌交じりに話していた彼の目が獣のように鋭く私を睨んだ。形容しがたい殺意の塊に呼吸が上手くできない。


「王家とベルナルドへの復讐ですよ。あの男が裏社会のボス、《王家の犬》というのは知っているのですか?」

「ええ……」

「ああ、やっぱり知っていたのですね。ですがあの男は君だけに知られないように、ずっと隠していたようですよ。滑稽なほど隠蔽して君に心配かけまいとして結果がこれだとは、ね」

「それは……どういう」


 ふと私の中である記憶が蘇る。

 それは学院時代、ベルナルド様を探していた時にルディー様に声をかけられた時のものだ。


『君の中に《魔法の種子》はないかもしれない。でも、もし疑似的な種子を取り込めば彼の役に立つかもしれないけど、やってみるかい?』


 断片的な記憶。

 何故今まで忘れていたのだろう。

 いやそもそもどうして違和感を持たなかったのか。

 あの言葉は学院時代のものじゃない。

 全て作られた記憶で、《疑似種子》を受け入れた。

 そして魔力吸収マジック・ドレインができるまでこの屋敷でルディー様と暮らして、副作用で体が辛かったけれど、ベルナルド様に会いたかったから耐えた。


(そうだ、私はここで一年暮らして魔法学院に入学した……)


 入学したその日にベルナルド様を見つけることができて、幸せだった。

 振り向いてもらえなくとも、彼もまた魔力暴走で死ぬかもしれないと分かっていたから、その運命から解き放とうと背中を追いかけた。

 余計なお世話かもしれないけれど、それでも彼が孤独じゃないと気付いてほしくて毎日馬鹿の一つ覚えみたいに会いに行った。


 ルディー様の手助けもあって、ベルナルド様とのやりとりも増えていった。

 だからルディー様とベルナルド様は仲がいいのだと思っていた。元々幼なじみでシナリオ上、敵対することもあったが、この世界では仲がいいのだと。


「ベルナルド様と仲がよかったフリをしていたのですか?」

「そう。今日この日を迎えるために二人とは仲のいい友人、相談役、お人好しを演じてきた。君がベルナルドを慕っていると話してくれたときから利用して、ベルナルドが君に惹かれつつあるころに私が君と婚約をするつもりだったのさ。あれは私が三年で卒業が近づいた頃かな」


 ルディー様たちが三年生ということは、私とベルナルド様が付き合う前。

 少しだけ彼との距離が近づいて浮かれていて、ローマン教頭との問題が色々片付いて少し安堵していた頃だ。


「ルディー様との婚約? そんなの……聞いてないです」

「そう。水面下で動いてベルナルドから君を奪う計画は完璧だった。だが最後の最後で父に気付かれて婚約する前に、破談にされてしまったね。口論して──。その騒ぎで妹もその現場を見られてしまったから、仕方なく口封じする羽目になってけっこう大変だったんだよ」

「……!」

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