第9話 離婚?別居?
口ぶりからして親友としてではなく、王妃の立場からの依頼なのだろう。
「ルディーが在籍中に魔力暴走と
「なるほどそういうことですか」
この死亡率97パーセントの世界で、トルーエンドに持ち込むことができたのは私の持つ
私の
ルディー・ウィリアム・ハイド。
彼はベルナルド様と同級生で攻略キャラの一人。私の能力の特性を起点に独学で研究して《
「(そういえばなにかとベルナルド様を追いかけていたらルディー様から声をかけて貰い、いろいろ協力して貰ったわ。代わりに私に研究の協力を頼んだりして──懐かしい)……その手の依頼なら私が断る理由はないですね」
「決まりね」
(旦那様に数日、王都に滞在すると相談しなくては……)
「じゃあ、早急に
(ん!?)
ベアトの言葉に私は固まってしまった。しかしすぐさま二人に待ったをかける。
「え、ちょ、まだ旦那様に相談してないのに、勝手に屋敷を離れるなんて……」
「ほら、そこよ。相談って完全にあの冷血漢にお伺いを立てているじゃない。いいのよ、『愛想を尽かして王都に戻る』とか思わせて存分に心配させてやるといいわ!」
「で、でも……」
やり過ぎではないだろうか。
それでなくとも今、旦那様──ベルナルド様の姿が見えなくなって屋敷の管理や公爵夫人としてやるべきことが山積しているのだ。そう思いアイリスに助け船を求めたのだが、
「ここはシャーロットの仕事が多くて気が休まらないだろうし、本当に静養させたいのならこの地を離れたほうがいい。離婚じゃなくて別居よ、別居。少しお互いに離れてみて気持ちの整理をつけるの」
「離婚!? 別居!? ま、まって!」
「今回の一件で公爵も少しはシャーロットのことを気遣うようになったかもしれないけど、全然ダメ。というか領地経営を丸投げってなんなの!? 馬鹿でしょ! いくら経済学を習っていたからって無茶振り過ぎ。独りで抱え込むなって学院時代から言っていただろう」
興奮するとどんどん口調が荒くなっていく。
そしてド正論。いくら裏社会での仕事が忙しかったからといって丸投げはやっぱり抗議すべきだっただろうか。
頼られるのが嬉しくて頑張りすぎた自分を呪いたい。
もっとベルナルド様を頼っていたら、傍にいたのだろうか。それとも──。
「抱え込み、……それは本当にソノトオリデス」
「急にカタコトになるな」
「うう……別居。旦那様と離れる」
「この土地にいたらシャルはずっと無理をするでしょう」
「あ」
辺境地であるここは王都のような物流も少なく、特産品やら名物なども無かったので生活水準もかなり低かった。冬を越すため身売りする女性が多かった報告書を読んだ時は戦慄したものだ。
だから王都の商会を通じて毛糸で作る小物やマフラー、手袋などを手の空いている女性たちに声をかけて仕事を用意、土地でもっとも収穫ができそうな作物の開発。その為に必要な導具やら手続なども行った。子供たちの学業向上に向けて文字の読み書き、季節の行事、寄付とこの三年間、慌ただしかったことを思い出す。
その合間に旦那様との時間を過ごしていたけれど、半分ぐらいは急遽予定が入って外出。
気付けば『仕事』と言って屋敷にいない。
旦那様が大好きだから全然苦にならなかった──はずなのに、なんだか思い返すと一人で頑張って無理をしていたと思う。
旦那様にとって私の存在は都合がよかった?
領地経営をする際に便利だったから。
ソンナコトナイ、そう何度も何度も自分に言い聞かせた。
パキン。
音が耳に聞こえる。
ふと旦那様への思いに疑問が一石を投じた。
やはり旦那様は私が領地経営を丸投げしても問題ないから結婚を承諾したのかもしれない。
在学中にどの授業を受けるかで悩んでいたときに、経営学や数学などを進めてくれたのは旦那様だ。
よくよく思い返せば学生時代、旦那様が私に声をかけてくれたのは学年試験で上位をキープした辺りの頃だった。
ずっと付きまとっていた後輩の価値を見いだしたから?
彼はどこまでも合理主義だったのだからあり得る。
あの時は天にも昇る思いだったので気付かなかった。
それから領地問題や復興についての話題をされるようになったから一生懸命に調べて、そしたら旦那様が褒めてくれてそれが嬉しくて──。
会話も増えて、家族同士の付き合いもできて舞い上がっていた。
父も母も、公爵家にと継ぐことを喜んでくれた。
ベルナルド様の親戚の方々も「これで領地経営が」云々って言っていたから浮かれていたのだ。
ベキベキと音が酷くなる。
一つ疑いが生まれるとそれは次々に増えていく。
どうして今まで気付かなかったのだろう。
一緒に居る時間を作ろうと口約束をよくしていたけれど、仕事でドタキャンなんて当たり前。
(でも旦那様の姿が見えなくってからは時間を作って……)
それは領地経営をする人間を逃したくないから。
私が旦那様を認識できないと噂が広まれば公爵家としての評判に響くから。
外聞や家を守るためなら時間も作るだろう。
彼は《王家の犬》であり、裏社会のボスだ。
ゲームで彼は息をするように嘘を吐き、いろんな人を利用していたのを知っている。
胸が痛い。
呼吸が息苦しく感じる。
バキバキベキベキ。
殻を破って何かが顔を出そうとしていた。
(婚約や結婚も都合のいい駒として必要なだけで、本当に愛した人は屋敷の外に──!)
刹那、断片的に旦那様と真っ赤なドレスを纏った女性の姿が浮かんだ。
ソファに横になり二人は密着して──。
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