Shall we dance ?
冬全日が終わると、四年生の追い出しコンパが行われる。追いコンといっても、四年生を楽しませるための、下級生による一発芸大会。そこで優勝すると、なんと希望する四年生と全部員の前で、オナーダンスを踊る権利を得られるのだ。
さっきから私とさーやんは、鏡に映った自分の顔を真剣に睨みつけていた。余念なく、眉毛と髭とどでかいホクロを、油性ペンでぐりぐりなぞる。
「絶対に優勝する」
私の気合いに、さーやんが深く頷く。
「蓮見先輩はまつりに譲る。でも松波先輩は、私がもらう」
モダンとラテンのどちらかの一方を自分の専門に選ぶ時期が来て、意外にもさーやんはラテンを選んだ。先輩たちはさーやんの背の高さを生かすため必死でモダンを勧めたが、さーやんの固い決意は変わらなかった。
さーやんは入部して半年が経つ頃、蓮見先輩推しから、ルンバ専門の松波先輩に乗り換えた。あれほどオタク気質だったさーやんも、いまでは妖艶に腰を振り、観衆の視線を釘付けにする作法を身につけている。いやはや都会とは恐ろしい。
私は当然先輩たちからラテンを勧められたが、強引にモダン人になった。一ミリも後悔はない。
ずらりと並んだ四年生の前に登場した私たちは、ステテコに腹巻姿、渾身の気迫で、キレッキレのヒゲダンスを踊った。そして見事、優勝を勝ち取った。
「まつり! オナーダンスのお相手はもちろん?」
司会役の同期に尋ねられ、私は威風堂々、蓮見先輩の前に進み出る。
私から蓮見先輩へ、右手を差し出す。蓮見先輩が、あの日私にしてくれたように。
「シャル・ウィ・ダンス?」
至極真剣な、変なおじさん姿の私に、蓮見先輩が腹を抱えて笑い出す。
「ちょっと、まつり! まさかその格好で踊る気じゃないでしょうね!」
友里子先輩が慌てて止めに入り、私を更衣室に引っ張っていく。メイク落としで油性ペンの眉毛を髭とホクロをごしごしこすり、自分の純白のドレスを私にかぶせた。
「友里子先輩のドレス、きついっす……」
「動けば馴染む! ほら、急いで行け、チャンプ!」
背中を押され、慌てて舞踊場へと舞い戻る。なんと蓮見先輩も燕尾服に着替えてくれていた。
もう二度と会えないと思っていたキングがそこにいた。私をこの世界に引っ張り込んでくれたキングが。
「まつり! 曲はどうする?」
ミキサー役が私に尋ねる。
「いつものやつ!」
私と蓮見先輩の声が被った。
音楽が流れ出す。耳慣れた軽快なイントロ。心が躍り出すドラム音。皆を煽るように、私と蓮見先輩が両手を打ち鳴らす。それにつられて、部員全員が裏カウントで手拍子をはじめる。リズムに合わせ肩を揺らし、両足は小さなステップを踏む。
蓮見先輩とホールドを組む。一歩目からアクセル全開。
Sing Sing Sing ! さあ、私たちについてこい!
Sing Sing Sing ! 鹿森千世 @CHIYO_NEKOMORI
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