第40話 捜索
三人の兵士は暫く言い合っていたけど、時間の無駄だと気がついたようだ。
「今は
「……そうだな、早くあの
「建物内は元々隠れる所もないし、隅々まで探した。保留地にはいないのだから、外に逃げたはずだ!」
「森の中か?」
「いや、どうだろう……? 『森は暗いし虫がいるし最悪だ』と、夜通し言っていたからな……。森の中に潜伏しているとは思えんが……」
「……あー、俺も聞いたな……。これから殺されるというのに、虫ごときに怯えるか? って言いたくなる悲痛な声だったな……」
「そうだな……。誘拐されてここに連れ込まれたくせに、最初の言葉が『蜘蛛の巣を取ってくれ!』だったからな……」
三人組がアントンの不思議な思考に頭を悩ませているところに、馬に乗った仲間が合流した。
「おい、つないでいた馬が一頭足りないぞ! どういうことだ!」
仲間の焦った声に、三人は顔を見合わせた。
「馬で逃げるような知恵があったのか……」
「馬に乗れたのか……」
「馬に触れるんだ……」
微妙にアントンを見直している三人を、仲間が怒鳴りつける。
「何をやっているんだ! 馬で逃げたんだぞ! このまま王都に戻られたら、俺達は終わりだ!」
「……そ、そうだ! まずい」
「補給地は隅々まで探したが、どこにもいない!」
「馬で逃げたのなら、ここに留まっているはずがない! 城に戻られたら、お終いだ……。手分けしてすぐに追いかけるぞ!」
兵士達は馬に乗ると、補給地から飛び出して行った。
「今の来たのは、さっき青い顔で執務室に入って来た奴だ。執務室で宰相が怒鳴っていたのは、アントンが逃げたとあいつから報告を受けたんだ。逃げてから、どれくらい経ったんだろう? 三時間くらいか?」
補給地からアントンの逃亡を知らせるのに一時間、私達が来るのに一時間。報告前にアントンを探したりもしただろうし、少なくても三時間程度は経っていると思う。
「三時間もあれば、近くの村には辿り着けるはずだ。周辺村をしらみつぶしに当たるか」
「…………」
「どうした? ボーっとしている暇はない。宰相達より先に見つけなければ、アントンは確実に殺されてしまう! これが最後のチャンスだ!」
さすがにフィンの声も焦っている。
宰相はリズ様を女王にするため、初めからアントンを殺すつもりだった。その罪を父に擦り付ければ、アッカーベルトを潰す最大のチャンスとなる。自分の計画を、死に物狂いでアントンを探しているに決まっている。圧倒的に人員が少ない私達は、完全に遅れを取っている。
フィンの言う通りなのは分かるけど、その捜索方法はアントンに有効? あのアントンを相手に、正攻法でいいの?
いつだって悪気なく、私達の予想を超えた行動をするのがアントンだよ?
「逃げ出してから少なくとも三時間も経っていて、馬もある。なのに、王城に着いていないって、おかしいと思う」
私の疑問にフィンが答えを探している。
「……アントンのことだ、道に迷ったのかもしれない」
そうかもしれないけど。
「……乗馬もあまり得意じゃなかっただろう? 途中で落馬したのかもしれない」
そうかもしれないけど。
「派手好きのアントンは寝間着も派手だから、野盗に捕まったのかもしれない」
それは困る……。
「補給地から王都までは一本道だよ? さすがのアントンも迷えない。落馬してたら、来る時に気づいたはず。今は昼間だから、さすがに野盗は……」
「……ルーは、アントンがどこにいるか分かるのか?」
フィンの紫色の目が、期待と驚きで大きく開いている。
「あー、いや、確信はないんだけどね……。アントンは、面倒くさがりでしょ?」
「あぁ、できるだけ自分が動かない方法を考えてばかりだ」
「アントンは、人任せでしょ?」
「あぁ、丸投げだな」
「アントンは、怖がりでしょ?」
「あぁ、恥ずかしげもなく公言しているな」
「そんなアントンが、自ら馬を駆って逃げ出すかな?」
「…………」
「アントンは昔から、『追いかけっこ』より『かくれんぼ』の方が好きなんだよ」
そう、アントンは昔から追いかけっこはしない。理由は、走ると疲れるから。その代わり、かくれんぼで隠れたまま昼寝をしていることはよくあった。
「……だが、保留地は兵士達が隅々まで捜索しているはずだ。厩舎と物置しかないのに、探していない場所なんて無いだろう? さっきの奴等だって、訓練を経て軍人になったんだ。探し物ができないほど間抜けとは思えない」
そうだ、保留地は広いから追いかけっこには適しているけど、かくれんぼには全く適していない。だだっ広くて、どこもかしこも端まで見渡せるから、隠れる場所なんて無い。
だけど、一箇所だけ、一箇所だけ隠れる場所がある。
「子供の頃、軍のみんなと一緒にこの補給地に何度か来たわ。兵士は馬を休ませたり、物資の補給とか色々とやることがある。だけど、馬も装備も持たない私には、何もすることがないの」
「まぁ、そうだろうな」
「暇だった私は、追いかけっこにも飽きてしまった。だから、ベニスを誘ってかくれんぼをすることにしたの。でも、恐ろしいくらいに隠れる所がないのよ? サートンが『隠れる場所がない』と泣いてしまって、だから私とベニスは隠れる場所を作ったの」
フィンの右手が口元を覆った。
「……そこにアントンがいて、俺達の助けを待っていると?」
その言葉に、私はうなずいた。
「前に一度、アントンにも同じ話をしたことがあるの……」
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