蘇りの加護
第25話 記憶
「あー、本ばっかりの場所って嫌い……。何か、色んなところかゆくなってくる!」
「戻っていいよって言いたいところだけど、ここは王族専用書庫だからアントンがいないと駄目なのよ。ごめんね、我慢して!」
「……うぅ……」
本アレルギーを公言しているアントンは、窓を開けて深呼吸を繰り返している。
「あっ、アントン、あんまり窓の前に立つなよ? 狙われるぞ!」
フィンのあっさりとした忠告にサッと床に腹ばいになったアントンは、「言葉で注意じゃないだろ。本じゃなくて、もっと俺を見てろよ!」と悲鳴のような声をあげた。
アントンは暫くブツブツと文句を言っていたけど、私達が調べ物に没頭して相手にしないので諦めた。
暇を持て余して書棚の前に立ってみたりもしたが、本を手に取る気にはならないようだ。
広くはない部屋にところせましと書棚が並ぶこの場所には、この国の成り立ちや重要な文献といった古書が多い。そのせいか、書庫というよりは、博物館のような趣だ。
前回の私は、もちろんこの場所に来たことはない。私の家族は、おそらく誰も入ったことがないと思う。王族専用なのに、王族が来ないのだから宝の持ち腐れだ。
最も宝を腐らせたアントンが、観念したのか椅子に座って居眠りを始めた……。協力して調べる気はないらしい……、さすがだ。
それに対して、フィンは必死になって過去の文献を探してくれている。
協力してくれるのはありがたいけど、どうしたって息苦しい。私がリズベッドとしてフィンに思いを寄せ、ハインス家の過去も未来もズタズタに引き裂いたと知られてしまったのだから……。
フィンに前回の記憶がないとはいえ、聞いていて気分のいい話ではなかったはず。
ルーリー・アッカーベルトとして、できれば嫌われたくはなかったな。なんて思うのは、あれだけのことをしておいて、図々しい話だ。
本を読み込むフィンを見ていると、不意に顔を上げて私を見るから目が合ってしまう。まさか私を見るなんて予想外で、私は慌てて本を読んでる振りをしたけど、見ていたのはバレているよね……。
そんな動揺激しい私に、フィンは普通に声をかけてくる。
「教えてくれた以外で、前回と今回で違う点は他にあるか?」
以外にもすんなりと私達の話を受け入れてくれたフィンは、わだかまりを持った様子が見えない。私に気を遣わせないためなのだろうけど、それがかえって申し訳ない……。
「……リズ様が私じゃない、ブライアンが護衛じゃない、アントンがマーゴと結婚しない、アントンの婚約者が私、アントンが廃嫡されていない、それ以外となると……? あぁ、小さいことですけど、前回は陛下が私を甘やかしていたのに、今回は王妃様同様無関心ですね」
「あー確かに、前回のリズは、国王にとって特別な存在だったね」
寝ていたはずのアントンが、いつの間にかスッキリとした顔で自然と会話に入ってくる。
「リズが五歳か六歳位の頃には、俺は側にも行かせてもらえなくなっていたなぁ。はっきりと『リズベッドは特別な存在だから近寄るな!』と、父上に言われたよ」
確かに、その辺りから接する人が急に減った気がする。自分の我が儘のせいだと思っていたけど、陛下がそう仕向けたってこと?
「兄さえ寄せ付けないほど守られていた? 前回のリズベッド様は、そこまで陛下の関心を惹く何かを持っていたってこと?」
「私はただの我儘娘でした。今のリズ様の方がよっぽどできた王女として、陛下の関心を惹くはずです……」
(陛下の態度は、前回と今回では雲泥の差だ。愚かな私をあれだけ溺愛していたのに、どこに出しても恥ずかしくない今のリズ様には無関心。明らかに、おかしい……)
「前のリズベッド様は、何か特別な能力を持っていたんじゃないのか?」
「そんなものを持っていれば、さすがに覚えているかと……」
「なら、リズベッド様には隠されていたとか? リズベッド様は知らないけど、陛下は知っていた何かがあったんじゃ……」
「何かって、何だよ? 誰にも言ってはいけない秘密か?」
(……誰にも、言ってはいけない……?)
「ルー、大丈夫か? 顔色が悪いぞ?」
「ルー! どうしたの? ルー!」
アントンとフィン、二人の声が驚いた顔が遠のいていく。
遠い記憶……。遠い記憶が二つ重なる
胸の奥に封じ込められていたものが浮かんでくると同時に、現実の視界がユラユラと歪んでいく。一緒に身体の力も抜けていく。
頭に二人の男性の声が響いて、割れるように痛い。
『今日のことは、絶対に、誰にも言ってはいけないよ?』
そう言ってニヤリと笑う空色の瞳。
『今やったことは、二度とやってはいけない!』
そう言って必死に怒る紫の瞳。
それと共に、私は意識を手放した……。
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読んでいただき、ありがとうございました。
本日二話目の投稿です。
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