第13話 リズベッドの初恋
ブライアンが息子であるフィンレイルを紹介してくれたのは、私が十六歳の時だった。
ブライアンが私に紹介しようと思って連れてきてくれたのでは、もちろんない……。
ブライアンに息子が会いに来たという話を聞いた私が、こっそりと後を追いかけた。もちろんブライアンは、私の行動なんてお見通しだ。うんざりした顔を隠すことなく、ため息をつかれたもの……。
それでも嬉しそうに紹介してくれたのは、自慢の息子の実力が認められ配属の希望が叶ったからだ。
軍人と言えど高位貴族は実力のない者が多く、権力重視の第一師団に配属されるのが通常だ。侯爵家の嫡男が実力重視の第二師団に配属されるなんて、大抜擢だ。
「リズ様、これが私の息子フィンレイル・ハインスです。二十歳になり、第二師団に配属となりました」
ブライアンと同じで軍人らしい短い黒髪に、紫色の瞳、鍛え上げられた大きな身体。後姿は見間違えるほどそっくりだ。
だが、糸目でにこやかなブライアンと違って、フィンレイルの目は切れ長で冷たい。それが高い鼻梁と薄い唇とあいまって、野性的で精悍な顔立ちを際立たせる。
目を引いたのは、見た目だけではない。
私に会う者はみんな、私の後ろに国王を見る。誰もが父に取り入ろうと擦り寄って来るのが普通なのに、フィンレイルはそれをない。
礼儀正しく挨拶をして、凛々しいまでに静かに佇んでいた。
一目惚れだった。
第一師団は近衛兵を擁し警護と王城の警備が主な任務だが、第二師団は国軍としての軍務を担当している。
今は戦争状態ではないため偵察部隊以外は、城内の訓練所で鍛錬が主な任務だ。
私はフィンを一目見るため訓練所に通いつめ、度々お茶に呼び、自分が考えつく猛アピールをした。だけど、フィンが私に振り向いてくれる気配はない……。
ブライアンに似て優しい人だから、私に同情的ではあった。たまに笑顔を見せてくれるようになっていたから、妹程度には思ってくれていたと思う。
それで満足していれば良かったのに、私はフィンにも自分と同じ気持ちを持って欲しいと望んでしまった。人の気持ちなんて強要できるものではないのに、私はそれを分かっていなかったんだ。
もっとフィンとの時間を持ちたい私は、ブライアンと国王に「フィンを護衛にして欲しい」とお願いをした。
父はいつものように「お前の身を守れるのはブライアンだけだ」の一点張り。それどころか、何度も断っているのに宰相の息子を婚約者にしないかと、また言ってくる始末。話にならない!
ブライアンも「フィンは第二師団で司令官になることを望んでいます」と言って、私の願いを聞いてくれない。当然だ。愚かな我が儘王女の願いを叶えて、息子の将来を棒に振る親がいる訳がない。
でも、馬鹿で薄っぺらな私は、王女である私が降嫁すれば誰もが喜ぶと思い込んでいた……。
ブライアンのおかげで勉強もマナーも頑張り淑女と言われるには程度にはなったけど、所詮私は我が儘王女だ。
初めての恋に浮かれ、自分の気持ちを制御できず、押し付けることしか考えられない。少しでもフィンと一緒にいるために、どうしても彼を自分の護衛にすることを諦められなかった。
だから、私の末路は愚かで自業自得としか言えない……。
どうしても護衛をブライアンからフィンに変えたい私は、浅はかな行動に出た。ブライアンがミスを犯したと見せかけることで、護衛を変えようとした。
今にして思えば、どうしてそんな愚かなことを考えたのだろうと思う。
ミスを犯した父親から息子に交代する訳がない。そんな単純なことが分からないほどに、私はフィンに夢中だった。
私の計画は公務の前に癇癪を起して一人になり、バルコニーから中庭に出て身を隠す。そうすることで公務を無断欠席するという、杜撰で馬鹿としかいいようのない計画だ。
それだけでも十分馬鹿なのに、バルコニーからの逃走に失敗して地面に落ちた私は、頭を打ち意識を失ってしまう……。
目が覚めた後は地獄だった……。
ブライアンは私を守れなかったとして、護衛から外されていた。
彼が失ったのは、護衛という職だけじゃない。軍は不名誉除隊だし、領地は没収、侯爵位は廃爵されていた……。
もちろん、私の護衛はフィンじゃない。
ブライアンの息子であるフィンだって、家名と共に職を失った。国軍の司令官となる彼の夢は、私の馬鹿げた行動によって永遠に叶わないものになってしまった……。
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読んでいただき、ありがとうございました。
本日二話投稿します。
よろしくお願いします。
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