何気なく過ごす毎日の中での記憶に残る思い出は、時間の過ぎ行く中で奥深く沈殿してしまっていつの間にか無くしたと思うのだけれど、不思議なものでほんの些細なきっかけにより色鮮やかに蘇りその当時に受けた諸々の感情を過去から現在、生きているこの瞬間に再び体験できてしまう。この喜びは、年齢を重ねるごとに機会が増えていくような気がします。フクロウさんの意図とは違うかもしれませんが、この作品を読んで久方ぶりに自分自身の様々な思い出に時間を費やす事が出来たことを感謝します。
静かに穏やかに語られる、ある老女の回顧。セピア色の文章が読者の心を温め、なんとも言えない哀愁で染めるでしょう。ラストも幸せな気持ちで迎えることができる秀作です。
人生の片翼とも言える最愛の人を見送ったら、残された者はどう思うか……いつか訪れるその時を、私はどう捉えるだろうか……どちらの立場になっても考えさせられる作品でした。特に、身内を見送った経験がある人には、とても響く作品だと思います。