静かで強い想いこそ生き延びる

  • ★★★ Excellent!!!

有史より、人類は生き延びるために科学や医療を進歩させてきました。
しかしそれは、未来の多数が前進するために、過去の少数を置き去りにする歴史でもあります。

本作は、今より少し先にある未来を舞台としています。
光合成する人体の実験が公に行われる世界。
緑の肌を持つ実験体・葵が、肌の弱い主人公・咲の学校に転校してきます。

咲は自身の体験から、葵に親近感を抱き、二人は打ち解けていきます。
しかし、ある大きな事件が起こり、葵はその結果を引き受けざるを得なくなってしまう。

私が驚いたのは、この物語が持っている強い静けさです。
物語を淡々と進める静謐さ。物静かな子供として描かれる咲と葵。
それらが非常にリアルで、題材も相まって「これは実際に起きていることだ」と感じました。

現実に私たちは、今も進歩(と同時に起こる差別)のために少数を置き去りにしているのではないでしょうか。
そして同時に、私たちの多くは未来のために置き去られる側でもあるのではありませんか。

咲が葵のために訴える場面で、私は泣いてしまいそうになりました。
あまりにも当たり前のことを言っているのに、周囲に響いていかない。
誰も、人間ではない彼に共感することができないのです。

だけど、この物語の中で本当の意味で生き延びることができるのは、葵と咲です。
咲の静かで強い想いだけが、葵の存在を永遠のものにし得る。
それは科学や医療ではなく原始的な感情によるもので、しかも他の誰も追いつけない。
ごく自然にこの静けさでもって、そのハッピーエンドを描けたのは、作者の確かな筆力あってのことだと思います。

読ませていただき、ありがとうございました。

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ついのすみか

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