魔力を無効化する特異体質を持つ主人公のフレックは、政略結婚の相手であるヘリオスフィアに恋をします。
ですが予知のような夢の中で、ヘリオスフィアの幸せを見てしまいます。自分は彼の魔力暴走を止めるだけの存在だ。このまま婚約を続ければ、ヘリオスフィアの幸せを叶えることは出来ない。そう思い、フレックは婚約破棄をしてもらうために胸糞を演じます。すべては愛するヘリオスフィアのために――。
時折ほろっと出てくる独特な言い回しに魅了され、カクヨムを初めてすぐに筆者のファンとなりました。すべての作品に目を通せていませんが、筆者の長編は本作が初めてでした。
口当たりがよく、ふいに現れる甘さを感じる文章でつづられた物語。その根底にはお互いを愛するゆえの、お互いの幸せを願うゆえの葛藤やすれ違いがあり、まあ甘酸っぱい! じれったい! ですが、もうその時点でふたりの虜です。心をつかまれました。
本編が終わり、ふたりが結ばれてめでたし、めでたし。後は番外編でふたりの幸せな日常が読めるのかな……と思っていたら、裏に隠された真実が次々出てきます(もちろんふたりの日常も読めます)。
フレックはヘリオスフィアの幸せを願って胸糞を演じます。ヘリオスフィアと結ばれた後も、みんなの幸せを願って行動します。本作の根底には、そんな幸せを願うやさしさが詰まっているから、読んでいて何か心に残るものがあるのだと思います。
個人的には28の外伝にすべて心を持っていかれました。
物語が終わってしまう、寂しい。でも完結してこそ味わえる満足感……幸せです。
そんな素敵な作品をありがとうございました。