迷子の風船 〜風船族の旅〜

藍条森也

風船族の旅

 風船族。

 決まった住所をもたず、自家用飛行船に家財道具一式を詰め込んで空に住まうエアシップ・ピープル。

 かのもそんな人間のなかのひとり。

 日々、当てもなく空をさ迷っては、同じような立場にある風船たちと関わったり、その日その日の出来事をネット配信して日銭を稼いでいる。

 そんな暮らしをもう何年つづけているだろう。

 若い日はもっと燃えていた。

 ――分からず屋の親や、口うるさい上司の言いなりになって生きるなんてゴメンだ! 自分はいつかこの地上を離れ、何のしがらみもない自由な人生を送るんだ!

 そう思っていた。

 そのために、風船族になった。でも――。

 いまの暮らしはどうだろう。

 日々、生活費を稼ぐために記事の更新時間に追われ、記事のネタ集めのために奔走し、閲覧数がひとつふたつ増えたと言っては喜び、なかなか伸びないと言ってはうつになる。

 そんな日々の繰り返し。

 地上にいた頃よりよほどしがらみの多い毎日。

 そこに、かつての自分が思っていた理想の暮らしはなかった。

 ――自分になかったのは心の自由なのだ。

 そのことに気が付いたのは、いや、気付かされたのはいったい、いつのことだろう。

 自分は何もない人間なのだと、やりたいことも、望みもない。ただ、流されるだけの人間。他人に指図されなければ何をしていいかもわからない。

 そんな人間。

 そんな人間に『自由』など感じられるはずもなかった。

 いつだったろう。

 その現実に気付かされたのは。

 かの人はギターを取り出した。下手な音を鳴らしながら歌うように呟いた。


  金の翼が生えたとき

  とってもとっても喜んだ。

  だけど、ちっとも飛べなくて

  いつか気付いた残酷な事実

  だって心に羽がない

  だって心に羽がない

 

 行く当てもなければ帰る場所もない。

 迷子の風船は今日もフラフラ空を往く。

                   完

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