迷子の風船
尾八原ジュージ
迷子の風船
マイコは私のともだちで、なぜかすぐに迷子になる。
ついさっきまで隣を歩いてたはずなのにいつの間にかいなくなって、スマホも全然出なくて、必死こいて探しているとそのうち思ってもみないところから「ごめんごめーん」って言いながら出てくる。
「迷子のマイコ」とか言ってネタにする人もいるけど、私は生きた心地がしない。行方不明になるだけじゃなくて、服をどろどろに汚してきたり、原因のわからない切り傷をこしらえてきたりして、尋常な迷い方じゃないのだ。もう二度とマイコと会えなくなるような気さえしてしまう。
マイコの迷子はそういう迷子だ。
あんまりいなくなるものだから、ある時マイコに風船を持たせた。
遠目にも目立つ赤い風船。マイコは「童心に返るわ~」ってウキウキしながら私の横を歩く。いや、いたはずだった。
なのに気がついたらまたいなくなって、赤い風船は手を離れたらしく、頭の上でふわふわ浮かんでいる。
うわ。なにやってんだあいつ。
風船は上空五メートルくらいのところを、まるで意思があるものみたいに飛んでいく。私はとっさにそれを追いかける。なぜとか不思議とか思っている場合じゃない。私は怒っているし、心配だし、悲しいのだ。
マイコが早々に私の言いつけを破って風船を手放し、どこかに消えてしまった。そのことが悲しい。
マイコにとって私はその程度の存在だったんだなって、そう思ってしまう。
商店街を抜け、駅前広場を通り過ぎ、いつの間にか元いた場所に戻った私の目の前に、見えない手に引っ張られるように赤い風船がすーっと降りてくる。
と、近くにあった普通のブロック塀の中からいきなりマイコがニュッと現れて、ぱっと風船の紐を掴む。
びっくりして立ちすくんでいる私を、マイコがすぐに見つける。
「見られちった」
そう言って、マイコは決まり悪そうに笑う。
結局マイコは何も教えてくれない。
迷子になっている間どこに行っているのか、何をやっているのか、どんなに尋ねても頑として答えない。それでも今回は変な怪我とかもしてないし、ちゃんと謝ってくれたので不問とする。
「秘密でいいけど、次会うときも風船持たせるから」
宣言してやると、マイコはなぜか嬉しそうに「へへへぇ」と笑う。
マイコの迷子は思ってたより意味不明で、わりと深刻そうな気もするけど、それでも風船があれば、いざってときには見つけられるらしい。
マイコの迷子はそういう迷子だ。
迷子の風船 尾八原ジュージ @zi-yon
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