4th spell 君が僕に魔術を教える、僕が君に魔法を教える

ミアは冷静にかつ真剣に目の前で柔らかい表情を浮かべている少年に懇願した


「僕はみんなを蘇生させて、魔法使いが笑って暮らせる世界を再興したいんだ。だけど、持てる魔術はみんな使ってしまって、どうにか新しい方法をと探し望んでいたところだったんだよ。僕はかつてこんな魔法を見たことがない。だから、どうか、僕にそれを、教えて欲しい!」


椅子をがたんと揺らして思わず立ち上がり、力説したが、少年はただただあんぐりと口をあけて固まるばかりで、嫌とも良いとも返事をしない


「もちろん、ただでとは言わない。君が僕に魔術を教える、僕も君に魔法を教える。それでどうだ?」


ミアは握りしめた銀色のフォークを曲がらんばかりに熱く握りしめ、少年の薄茶色の瞳をまっすぐに見つめた

少年はミアの剣幕に押され、先ほどの友好的な表情から一転、苦笑を交えて視線をそらそうと顔をゆがませる


「魔術って、別に、レンチンだし、カップ麺だよ?」

「そのような謙遜は良い。無詠唱かつ魔道具も魔法陣も無いのにこの威力、そして実力を誇示しない発言、僕は君を大物の魔術師と見た。頼むよ、僕は、僕は、生かされた者としてみんなを救う義務があるんだ。」

バイオレットカラーの大きな瞳が、少年の色素の薄い茶色の双眸を捕らえて離さない

先ほど流した涙がまだ長いまつ毛が濡れて光っている


早く、早く、と心を掻き立てる衝動だけを頼りに今までやってきたのだ

ここであきらめるわけにはいかない。僕の望みは、僕が叶えないと、だって魔法使いはもう僕しか残っていないのだから。


「わかったよ。事情はよく掴めないけど、電子レンジと電気ケトルの使い方を教えればいいんでしょ?まぁ、とりあえず、お好み焼きとカップ焼きそば、冷めないうちに食べな。」

「うん。」

着席を促されて僕はまず茶色の円盤に手を伸ばした


柔らかく香ばしい小麦の香りのするそれはかつて感じたことのない最高の美味であった

しゃきしゃきとところどころにかんじられる野菜と、上にかかった黒いソースがうまく絡みあって独特のうまみを放っている

ミアは物も言わず黙々とそれを口に運ぶ


「おいしい?口に合ったみたいでよかった。あんまり急いで食べるとのどに詰めるよ。」

「うっ・・・」

「ほらぁ。コーラ飲んで。」

喉を潤したそれは口の中ではじけて爽やかな風が吹く

甘くて薫り高いその液体は身体を潤すだけではなく、心まで満たしていくようである


次に白いカップに入った小麦の筋に手を伸ばした

ソースが絡んで茶黒に艶めいている小麦の筋の集合体は細く長く伸びていて、抜群ののど越しを誇っている

皿の上の料理は瞬く間に胃袋の中へ滑り落ちて無くなり、代わりに猛烈な満腹感に襲われる


ミアはカップの端に張り付いた野菜の欠片まで綺麗に食べつくすと大きなため息をひとつついて

「おいしかった。ありがとう。」

ぷっくりと膨れたお腹の上部を軽くさすりながら礼を言った

「いえいえこちらこそ。お粗末様でした。」


「ところで魔術師よ。先に食事を済ませてしまってからで申し訳ないのだが、名は何という?」

茶色の猫っ毛は毛先が少し遊んでいてふんわりとした印象を持たせる。目は色素の薄い美しい茶色。くっきりとした二重に長いまつ毛がびっしりと生えて大きな瞳が映えている

筋の通った鼻筋と黄褐色の肌

白いワイシャツに緩めた青いネクタイという恰好でミアの正面に腰かけて、マグカップに注いだコーラとやらを仰いでいる


東雲怜しののめれいです。よろしく。えーと、、ミアちゃん。」

「うん。よろしく、しののめれい。」

彼は、「怜でいいよ」と小さく添えて話を続けた


「ところで、魔法使いって、、、」

「あぁそうだ。僕は魔法使いだ。さっき使った魔術の失敗による影響でここに転移してしまったらしい。だけどおかげ様で怜に出会った。今後は魔術の教授を頼む。」

ミアは新しい期待に胸を膨らませて目をらんらんと輝かせながら怜を見た

怜は苦笑いを浮かべながら切れの悪い返事をする

「魔術・・・転移って、ガチかぁ?これ。」


怜は自分よりもひとまわり小柄な少女を見て

「あー、じゃあその、魔法ってやつ、見せてもらえないかな。」

と笑った

どうせ子供の妄想だろう。怜の横顔はそう言っている。

「うん、いいよ。食事の礼だな。」


ミアははみじろぎひとつせずにただそこに座っているだけなのに、ミアと怜が飲み干していたマグカップは宙に浮き、部屋の中央くらいまで上がったかと思えば急に水の球体に包み込まれた

そしてすぐにマグカップが食卓の上に帰ってきたときには

「綺麗になってる。」

すでに洗い終わった後のようにピカピカに白く輝いているマグカップが、さっきと全く変わらない位置に鎮座してどうだ綺麗だろうと胸を張っているようだ


「どうやったのこれ。」

「だから魔法だ。今のは簡単な水と風の魔法を利用してこれを洗ってみただけであるぞ。怜もすぐにこれくらいできるようになる。」

「はぁ・・・」

怜はやっとこさ納得したような、あきらめたような返事を漏らして、新品さながらに、かつ水滴も一滴残らさず光っているマグカップを不思議そうに眺めて、呆けた顔をしていた

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