第9話
状況は良くない。決め手に欠け、アルメがじき完全起動するだろう。その時しかない。
無機質な声がまた聞こえる。
「アルメヒティヒ起動します」
アルメがケースから出てくる瞬間を狙って俺はアルメの方に走る。
アクリルは当たり前だが立ちふさがる。
...これを狙っていた!
『刹那』を使う。アクリルの『不死』を奪うために。
「なにぃ!!」
アクリルは自分が殴られると予想がつかず無防備だった。
左拳をアクリルの腹に決め、壁まで吹き飛ばすが、
「あぁぁああああ!!」
激痛が走る。
この痛みに覚えがあった。そう『スキル合体』もしくは『スキル強化』を受けた時だ。
でも一回喰らっていたのでフラフラになりながらも耐える。
距離を何者かに詰められている気配を感じ、後方に跳ぶ。
一体誰が詰めてきたのか焦点を合わせる。予想はしていた。
エルフ耳に豊満な体で全裸の女性、そうアルメだ。
俺は構えるがここで違和感に気付く。よく見ると左肩から先がなくなっていたのだ。
『刹那』の代償だと考えて、すぐに目の前の方に意識を向けるが遅かった。
「ぐぇ!」
腹パンを鳩尾に喰らい、その場でうずくまるが次の一撃が来ると予感し、回避しようとするが少し遅く右足首が切断される。
「ぐわぁぁあ!」
痛い!!でもなんとか。
全裸なアルメのことに意識はもちろん行かず、ただ次の攻撃が来るのを待つ。
左足と右手がまだ残っている、なら!やるしかない!
俺は『刹那』を使う。
次の刹那、左足による蹴りがアルメに届き、アルメは吹き飛び牢屋の壁にめり込んだ。
そして俺は勢いよく座り込む。正確にいえばそうなってしまった。
『刹那』の代償で左足が消失していた。
すぐに右手を使って壁の方へと這いずり、右足首がない右足を支柱にして立ち上がる。
「ぐぅふぅ」
痛いけれどもアドレナリンのおかげで悶絶するほどではなかった。
右足首がアルメの手刀で切断されたことを考えれば物を鋭くさせるスキルだと思ってよいだろう、そして腹パンをした時に切られていないことから発動条件は面は平ではないことだ。
つまり手刀を気をつければよいということ。
今の体の状態を考えると避けれるかは別だがな。
「よくやりますね、そんな状態で」
哀れに満ちたボーカロイドのような声が聞こえる。その声の主がアルメヒティヒであることに気付いたのは少し経ってからだ。
「痛みを感じないように一瞬で首を切断して上げましょう」
どこまでも俺を哀れむのか。
このアルメが話している隙に『不死』を奪えていたのか自身のスキルを確認した。すると『不死』『刹那』『スキル偽装』『』となっていた。
…アクリルは選択を間違ったな。予想が正しければアルメの弱点は起動までの遅さともう一つあった。だからアクリルは俺に対して少しでも時間を稼ごうと『スキル合体』を使ったのだ。アルメのもう一つの弱点は起動した時の隙だ。この時がアクリルが最も油断する時と判断して『刹那』を使った。
自分がもっている知識はもう一度『刹那』を使わないといけないとわかっている。
これで俺は四肢欠損となるのか。まぁ、そんなことはいい。首を切られて生きたまま装飾にされる方がごめんだ。
「はぁはぁ、首を切ったあと、俺をどうする気だ?!」
痛みを振り払うように勢いよく言う。
気になっていることではあるが、それと同時に時間を稼ぐ役割もある。
「なにを言っているのですか?もちろん放置に決まっているじゃないですか」
俺はなにを言っていたんだ。反省するところはあるがおかげで血の気が引いていく。
より冷静に…そして廊下を走る音が聞こえる。
「ここまでか」
勝ちはするだろうが、その時自分は立っていないはずだ。それでいい。誘拐されたのは自分のせいだ。命をかけて仕返しをしているだけ。
アルメヒティヒは壁にもたれるように立っている俺に対して手刀の構えをして向かってくる。回避は出来ない。
正確には回避のために足を踏み込むことが出来ない。踏み込む足がないのだから。
向かってくるアルメを見ながら絶対に間に合うと言い聞かせる。
ギリギリだった。アルメの手刀を首に当てられる寸前、俺に当たらないように俺がもたれている壁から水柱を吹き出した。
異世界転移したけどモブだったが夜、吸血鬼が俺のことを吸いに来る。 隴前 @rousama
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