高校生

 沈む夕日が、オレンジから紫への鮮やかなグラデーションで空を彩っていた。細い糸のような巻雲は、その夕陽を浴びて輪郭をオレンジ色に染めていた。

 そんな空を背景に、1匹のカラスがカァーカァーと鳴きながら空を飛んでいた。いつも真っ黒なカラスだけれど、その時は夕日の逆光でさらに黒く見えた。


 冬の、夕方だった。

 澄んでいて、しんと冷えきった空気が漂っていた。


 僕は、失恋をした。


 僕は家に向かって、河川敷の道で自転車を一心不乱に漕いでいた。手袋もせず、自転車のハンドルを握る僕の手は、冷たい風に晒されてどんどん冷やされていった。荒い呼吸で吐く僕の息は、白く染ってぼわっと広がってゆく。

 すると、川辺でしゃぼん玉を吹いて遊んでいる親子の姿を見つけた。

 僕は思わず自転車を止め、そのしゃぼん玉を見つめていた。

 小さくも、大きくもない、いくつかのしゃぼん玉が、下の川辺の方から僕の方へと浮き上がって来た。

 しゃぼん玉の輪郭は、夕焼けに照らされてほんのりオレンジに染まりつつ、鮮やかな虹色に輝いていた。

 僕は、とても久しぶりにしゃぼん玉を見たような気がした。

 そのしゃぼん玉を見ている間、時間がゆっくりと過ぎているように感じた。しゃぼん玉は僕を優しく慰めているかのようで、僕は少しの安らぎを得ることが出来た。


 僕のところまで飛んできたしゃぼん玉は、突如目の前でぽんっと弾けた。

 小学生の頃は、しゃぼん玉は弾けた後も、どこまでも飛んで行くように思っていた。

 しかし、この時の僕は、しゃぼん玉は完全に消滅したのだと感じた。しゃぼん玉を構成していた物質も、そのしゃぼん玉があったという歴史も、突如として儚く消えていったように思えた。

 恋も、しゃぼん玉のように儚いものなのだと、その時の僕は思った。


 僕は前を向き、家へと自転車を漕ぎ始めた。

 

 


 


 

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