中学生

 すっかりと瑞々みずみずしさを失って、かつての生き生きとした深緑から薄い茶色へと変わった枯葉と、秋のわびしい景観を彩った黄色の銀杏の葉が歩道に散っていた。

 部活終わりの帰り道だった。全身に疲労感が残っていた。空は灰色の雲に埋め尽くされていて、冷ややかな空気が漂っていた。

 僕の右側には、登下校でいつも通る公園があった。枯葉は、その公園に生えている木々から散ったものだった。葉を散らしきった裸の木を見ていたら、子供がしゃぼん玉で遊んでいる様子が目に入った。


 子供がふーっと息を吹いて、小さなしゃぼん玉を沢山浮かべていた。小さなしゃぼん玉達はすーっと空へと上がっていった。

 綺麗だなと思った。しかし、それと同時に形容しがたい嫌悪感が腹の底から湧いてきていた。


 この頃、行き場のない苛立ちがずっと僕の心の中をうごめいていた。何か明確な原因があるわけでもなく、何か明確なはけ口があるわけでもない、そんな苛立ちだった。

 そんな苛立ちを抱えた僕は、純粋で綺麗なものを胡散臭く感じるようになっていた。しゃぼん玉も、例外ではなかった。ただ綺麗なものが存在するという事実が、なんだか受け入れ難いことのように思えていた。

 

 僕は思わず、しゃぼん玉から目を背けた。そして、そのまま家へと帰っていった。

 

 

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