本編

アバン


1 春の学校・放課後


  桜の花。

  運動部の風景。

  下校する生徒たちの風景。


2 職員室


  小日向ゆう(15)と七折惣之助(15)が、教師Aと話をしている。

  教師Aは座っている。

ゆう「何だって? 感知会がない?」

教師A「そういう部はない。そもそも何の略だ?」

惣之助「感覚外知覚学研究会の略です」

教師A「聞いたことないぞ」

ゆう「そんなあ……」

惣之助「烈さんの時代から、結構経ってますからね」

教師A「それっていつの話だ?」

ゆう「オレのじいちゃんです」

教師A「そりゃ、無いわ」

惣之助「ですよね~~」

ゆう「そんなあ」

教師A「ま、こうなったら、あれだ」

  教師A、うんうんと頷く。

  ゆうと惣之助は顔を見合わせる。

  教師Aが身を乗り出す。

教師A「道場破りだ」



 オープニング



Aパート

 

3 野球場・放課後

  たくさんの野球部員が見守っている。

  ゆうと惣之助もいる。

  グラウンドにはピッチャーがいる。

  バッターボックスに砥神彩(17)がいる。

彩「僭越ながら、砥神彩。参る!」

  ピッチャーが振りかぶる。

ピッチャー(M)「女ならこの程度で……」

  ピッチャーが球を投げる。

  彩は軽く打つ。

ピッチャー「え?」

  球は場外へ。

  監督と野球部員たちは驚く。

彩「ふむ。これで勝負は、ワンアウト(ここでゆうを映す)、二塁打(ここで惣之助を映す)からの、ホームラン。ということで、良いのかな?」

監督「ちょっと待て! もう一打席勝負だ。それでワンアウトを帳消しにしてやる」

彩「こちらには、何の得もないのですが?」

監督「まあ、そう言うな」

  監督はピッチャーの方へ歩み寄る。

監督「(小さな声で)手加減の必要はないぞ」

ピッチャー「はい」

  監督は戻っていく。

  彩がバッターボックスへ入る。

ピッチャー(M)コントロールには自信があるんだ。内角ギリギリを、速球で攻めれば!」

  投げた球はホームラン。

  野球部員たちは唖然とする。

彩「さすがに場外までは飛ばないな」

  ピッチャーは崩れ落ちる。

ゆう「よっしゃ、どうだ! これで許可証一枚!」

  監督が気付く。

惣之助「三振した男が、なぜ一番、威張っている」

監督「もしかして、お前たち……」

ゆう「え?」


4 生徒会室・放課後


  生徒で賑わっている。イメージは市役所。

  ゆう、惣之助、彩は、待ち合い席で順番を待っている。

ゆう「ぬかった……。登録が必要だったとはな」

彩「(微笑みながら)普通は、そうだな」

惣之助「ですよね~~」

  東谷聖莉(16)が三人に歩み寄る。

聖莉「君たちが、感覚外知覚学研究会?」

ゆう「おう」

聖莉「ボクは二年三組の東谷聖莉。生徒会の部活動推進課です。君たちの部の担当となりました。立会人を勤めますので、よろしく」

彩「こちらこそ」

聖莉「登録は三名。同好会スタートですね。五人になれば、部に昇格します」

惣之助「なるほど」

聖莉「部長は、小日向ゆうくん」

ゆう「オレだ。で、こっちが(惣之助を指差す)小学校から一緒の七折惣之助」

惣之助「幼稚園に上がる前からだよね」

ゆう「それと、野球部に挑戦する前に、そこを歩いていた子」

彩「砥神彩だ」

ゆう「よろしく」

  ゆうは彩と握手する。

  聖莉はぼうっとそれを見ている。

惣之助「適当でしょ」

  聖莉は頷いて、書類を閉じる。

聖莉「うちの高校の部活動システムは聞きました?」


5 体育館


  バスケットゴールの前にゆうたちとバスケット部員。

  ホワイトボードにバスケット部の成績。

  三人の名前と、『x/3』で表示されている。

  合計が7点。

  ゆうたちの方は分母が4。

  フリースロー対決をしている絵をバックに、聖莉が語る。

聖莉(N)「部活動を活発にするため、そして、限られた予算を有効に使うため、部活動を承認する許可証が発行されています。新しい部を創る人は、仮登録をしたら、既存の部に勝負を挑み、勝つことで許可証を手に入れます。三枚、手に入れれば、正式に登録されます」

  ゆうは三球外し、最後の一投のみ決める。

  バスケ部の余裕の面々。

聖莉(N)「勝負は何でも良いんですが、挑まれる方が勝負内容を決めるので、その分野での勝負となることが多いです」

  惣之助は最初と三投目のみ決める。

  バスケ部は安堵の表情。

聖莉(N)「既存の部が三枚取られれば、廃部となります。但し、校外的に成績を残している優秀な部は、その限りではありません」

  彩、ボールを構える。

彩「僭越ながら、参る」

  彩は一投、二投を連続で入れる。

  バスケ部の顔が引き攣っていく。

聖莉(N)「部員数も多く、且つ、優秀な部を廃部にするわけにはいきません」

  彩は三投目も決める。

  バスケ部の顔が歪む。祈るポーズ

聖莉(N)「なので、その部が持っている予算から削るようになっていきます」

  最後も彩は見事に決める。

  バスケ部の顔は唖然とする。

彩「まあ、こんなものだろうな……」

聖莉「バスケット部七点。挑戦者七点。同点は、挑戦者の勝ちとなります」

  落胆するバスケット部。

  ゆうは大喜び。


6 廊下


  ゆうたち、廊下を歩く。

聖莉「県大会とかがない部活動でも、挑戦者を撃退すること自体が成績となります」

ゆう「へえ」

聖莉「プリン部なんかは、去年立ち上げて以来、負け知らずです」

彩「それはすごいね」

惣之助「プリン部って……」

聖莉「だから、先ほどの、バスケット部との勝負で得られたものは成績、つまり部費です……が、活動が開始されないうちは、宝の持ち腐れです」

  ゆうは思い出す。

ゆう「野球部との勝負にも勝ったぞ」

聖莉「そのことに関して、野球部から申し出があり、申請前との事でノーカウントとなっております」

彩「おや、まあ」

聖莉「同じ部への勝負は、一ヶ月内は認められませんので、次は……」

惣之助「一ヵ月後ということか」

彩「となると、まず証を手に入れる方が、先ではないかね」

聖莉「その方が効率的です」

ゆう「そうか。となると……」

  ゆうは頭をめぐらせる。

  手短な所にバックギャモン部を見つける。

ゆう「ここだ」


7 バックギャモン部の教室


峠田亜呼(17)「断る」

  ゆうたちを前に、亜呼は仁王立ちしている。

  教室には誰もいない

ゆう「何でだよ! おい、立会人! こんなの許されるのか?」

惣之助「どちらも先輩だよ」

聖莉「正当な理由があるのなら」

  聖莉は亜呼を見る。

亜呼「お前はバックギャモンを知っているのか」

  亜呼はゆうに訊く。

ゆう「ん? え~~と、ぎざぎざってした盤を使うんだよな」

惣之助「知らないのね」

  惣之助が亜呼の視線に気付く。

惣之助「僕は知ってます。やったこともあります」

彩「私もだ。西洋のすごろく、と思っていいよね、あれは」

亜呼「そうだな。歴史も古く、遊戯人口も多い、ボードゲームだ」

ゆう「それが何だよ」

亜呼「二個、言う事がある!」

  亜呼は指を二本立てて、突き出す。

亜呼「ルールも面白みもわからない奴と、勝負する気にはならない!」

  間。

惣之助「もう一個は?」

  間。

ゆう「そんなの理由になるかよ! こいつ、勝負を捨ててるんだ、オレたちの不戦勝だ。なあ先輩」

  ゆうは聖莉に言う。

亜呼「お前のようなやつがいるから」

  亜呼はゆうを睨む。

ゆう「何だよ」

聖莉「理由としては了解した」

ゆう「え!」

惣之助「じゃあ、そういうことで」

ゆう「ちょっと待てよ! お?」

  ゆう、惣之助に引きずられるように出て行く。

惣之助「引き際が肝心だよ、ゆう」

ゆう「ちょっと……」

  ゆうは、立ち尽くす亜呼を見る。

  亜呼は手を強く握り締めている。

  ゆうは眉をしかめる。


8 渡り廊下


  生徒会室へ戻る途中のゆうたち。

  ゆうは腕を組んで、考えながらついていく。

惣之助「どうした?」

ゆう「何で、あいつ、あんな顔をしてたんだ?」

彩「あんな顔……というのは?」

ゆう「何っつうんだろう。悔しい? ……いや、寂しい……かな」

聖莉「彼女は、バックギャモン部の部長、三年一組の峠田亜呼。部員は他に四名いることになっていますが、名前だけの幽霊部員みたいですね」

惣之助「ちゃんと活動しているのは、峠田さんだけってことか」

彩「もしかして、許可証が残り一枚って、ことだろうか?」

聖莉「そうですね。それを取られたら、バックギャモン部は廃部となります」

ゆう「だからか……」

  ゆうは足を止め、窓に目を向ける。

  皆も足を止める。

  窓からは運動部の姿が見える。

ゆう「みんな、高校で部活を楽しみたいだけなのに」

聖莉「でも、全てを許していたら、成果を出せない部に、正当な部は足を引っ張られることになります」

彩「正論だね」

惣之助「活動したければ、真面目にやるしかない。そうしなければ、すぐに新しい部に取って変わられてしまう……ということなんだ」

聖莉「それが、うちの部活システムです。だから、『道場破り』と言われているのです」

ゆう「そういうことか……」

彩「この学校で、部活をしたければ、自分の手で勝ち取るしかない」

  ゆうは三人を見る。

彩「勝負をするなら、君も本気でぶつかるしかないのだよ」



Bパート


9 別の部活の教室がある廊下・次の日の放課後


  ゆうは教室の前で足を止める。

  生徒三人が、泣きながら部活動の表札を外している。

亜呼「(後ろから声をかける)美術同好会だ」

  ゆうは振り向く。

  亜呼が歩いてくる。

ゆう「峠田亜呼……(視線を三人に戻す)知ってる奴らか?」

亜呼「美術部が現存しているのに、美術を鑑賞するのを目的と謳って、設立した同好会だ。バカだろ?」

ゆう「そんなこと、お前に言う権利はあるのか?」

亜呼「去年、許可証を一枚取られた」

  ゆうは目を逸らす。

ゆう「……そうか」

亜呼「同情してくれるのか? 最後の一枚を取ろうとしている男が」

ゆう「同情は……してないぞ」

亜呼「そうか?」

ゆう「だって、バックギャモンの素人に負けたんだろ。それって、部として、どうなんだよ」

  亜呼は少し笑った。

亜呼「あいつらの一人が、元はうちの部だったんだよ」

ゆう「ん?」

亜呼「古巣を狙ってきたんだ。あたしには勝てるって思ったんだろ」

  ゆうは、去っていく美術部同好会の三人の背中を見送る。

亜呼「あたしは一年生の時、バックギャモン部を作った三年の先輩に、誘われて入部した。二年生にも強い先輩がいて、負け知らずで、許可証三枚、三年間ずっと保持してこれたんだ」

ゆう「今はお前だけか……」

亜呼「あたしだって、先輩たちと戦ってきたって自負はある。だけど、それはあいつらも同じだったんだ」

  美術部同好会は廊下を曲がって消えた。

亜呼「実力的には同等の部員たちだった」

ゆう「勝負を挑んできたんだな」

亜呼「あたしが部長になった途端、皆辞めていった。それだけならまだしも、やる気もない部を立ち上げて、許可証を奪っていった」

ゆう「だからお前、あんなに悲しい顔をしていたのか?」

亜呼「……そう、見えたか」

ゆう「だったらさ……」

亜呼「ん?」

ゆう「オレなんかは、ルールを全く知らないんだから、あのまま勝負して、成績にしちまえば良かったのに」

亜呼「お前に、二個、言う事がある」

  亜呼は指を二本立てた。

ゆう「何だよ」

亜呼「あたしは疲れたのだ。一人だけの部活を、一人で守っていくことに」

ゆう「峠田亜呼……」

  亜子は歩き出す。ゆうを追い越していく。

亜呼「お前が、もし、バックギャモンの楽しさを、少しでも分かってくれたらな……とは思ったさ」

ゆう「むう……」

亜呼「そうすれば、たとえ、お前が許可証狙いの略奪者だとしても、嫌いにならずに済むからな」

  亜呼は手を上げて去っていく。

  ゆうは立ち尽くしている。

  後ろから、彩と惣之助が歩いてくる。

ゆう「(亜呼の後ろ姿を見たまま)彩さん」

彩「何だい?」

ゆう「バックギャモンを知ってる?」

彩「もちろん」

  ゆうは振り向いて、二人を見る。

彩「覚える気があるなら、教えるぞ」

  ゆうは頷く。


10 バックギャモン部の教室


  ゆうたちが入ってくる。

  窓際で外を見ていた亜呼が振り向く。

ゆう「勝負しにきた」

亜呼「よかろう」


11 バックギャモン部の教室


  ゆうと亜呼が一つの机で、向かい合って座っている。

  机の上には、バックギャモンの盤が乗っている。

聖莉「勝負は、部長同士による、一対一の、一本勝負で行います」

亜呼「へえ。良いのかい?」

ゆう「この二人は、オレよりも強いけど、オレの方が、サイコロの目を呼ぶツキが強い」

惣之助「サイコロを振るのも上手いから、僕らは強いんだけどね」

彩「まあ、良いではないか。小日向くんの本気は、見せてもらったからな」

亜呼「二個、言う事がある」

  亜子は指を二本立てる。

ゆう「何だ?」

亜呼「ツキだけでは、バックギャモンには勝てない」

ゆう「戦略だろ。もちろん、行き当たりばったりで勝つつもりはない」

惣之助「やっぱり二個目はないんだね」

  亜呼はサイコロを持つ。

亜呼「勝負だ」

聖莉「では、バックギャモン部と、感覚外知覚学研究会との、勝負は始めます」


  進んでいくバックギャモン。

  惣之助、彩、聖莉は、静かに見守る。

  ゆうは必死、亜呼は楽しそう。

  亜呼のコマは「23」に二つ、「24」に二つ。

  ゆうのコマは「3」に一つ、「4」に三つ、「5」に一つ。

彩(M)「峠田さんはあと二手で上がれるが……」

惣之助(M)「勝敗は、ゆうの目で決まる」

  ゆうがサイコロを振る。

  サイコロの目は、1と3。

  ゆうは少し考える。

  「3」を上がらせ、「5」を「4」へ一つ移動する。

亜呼「ほう」

彩(M)「そう来たか」

亜呼(M)「次にあたしが、ゾロ目を出せばそれで上がりだというのに、まだ諦めていないね」

  ゆうはドヤ顔を見せる。

惣之助(M)「そこまで考えてないよな、多分」

  亜呼がサイコロを振る。

  2と6が出る。

彩(M)「勝負はまだ分からなくなったぞ」

  亜呼は「23」の二つを上がらせる。

惣之助(M)「これで、ゆうが勝つためには」

彩(M)「4以上のゾロ目が必要だ」

  ゆうはサイコロを持つ。


12 生徒会室前


  ドアの前で聖莉に別れを告げるゆうたち。

聖莉「良い勝負でしたね」

彩「そうだな」

聖莉「では、また明日」

  聖莉は頭を下げる。

惣之助「ありがとうございました」

ゆう「じゃ」

  聖莉が部屋へ入っていく。

  ゆうたちは、それを見送ってから歩き出す。


13 廊下

  歩いている三人。

彩「意外と悔しそうじゃないな」

ゆう「そう?」

惣之助「嬉しそうだよ」

ゆう「負けたのは悔しいぞ。ただ…」

彩「ただ?」

ゆう「また、勝負したいとは思う」

惣之助「峠田さんもそう言ってたしね」

彩「小日向くん」

ゆう「ん?」

彩「本気でサイコロを振れない人間に、運はつかないぞ」

  彩は横目でゆうを見る。

  ゆうは頷く。

ゆう「オレは本気だったよ。峠田亜呼の方が、ちょっとだけ本気度が強かっただけさ」

彩「そうか」

ゆう「そうさ」


14 階段前の廊下・放課後


  掃除中のゆう。

  つかつかと、彩と惣之助が歩いてくる。

ゆう「おう、今日もがんばる……か?」

  彩と惣之介が、両脇からゆうを抱える。

ゆう「え?」

  ゆうは連れ去られる。


15 バックギャモン部の教室前


  ドアの前に、心配そうな顔の聖莉が立っている。

  ゆうたちは駆け寄る。

  聖莉が無言でどく。

  ゆうたちは教室内を見る。

生徒A「さあ、勝負するか? それとも、しないで許可証を渡すか? どっちだ」

  亜呼は腕を組んで、仁王立ち。

  その前に生徒Aと、四人の生徒。

ゆう「あいつら……」

聖莉「新しく部を立ち上げるらしくて、許可証を狙っています」

惣之助「どうして、ここへ……」

聖莉「元バックギャモン部たちです」

  亜呼の前に立つ、五人のうち、三人が美術同好会のメンバー。

彩「好きに出来る部室を得るためだけに、部を立ち上げる者も多くないという……」

惣之助「真面目にやろうとしている人には、迷惑な話だね」

  ゆうは手を握りしめる。

  生徒Aたちに付いている立会人が、困った顔を向ける。

生徒A「さあ、返答は?」

  亜呼は答えない。

ゆう「決めた」

惣之助「え?」

  ゆうは教室へ入っていく。

  まず亜呼が気付く。

  ゆうは、亜呼と五人の生徒の間に立つ。

生徒A「え…と、君は?」

  ゆうは五人の生徒を指差す。

ゆう「感知会が、お前らに勝負を申し込む」

五人の生徒「えええええ?」

亜呼「小日向?」

  彩と惣之助も入ってきて、後ろに立つ。

生徒A「いや、あのね、僕たちがここの部に勝負を挑んでるわけで……」

聖莉「承認します」

  聖莉がゆうの横に並ぶ。

立会人「同じく」

五人の生徒「えええええ?」

亜呼「お前たち……」

  ゆうたちが亜呼に振り向く。

  ゆうはサムズアップをし、にっと笑う。

生徒A「そもそも、君たちは賭けるものがあるの?」

ゆう「何を言う。オレは熱き青春の日を賭けて、今を生きてるんだぞ」

惣之助「意味が全く違うね」

彩「私たちが今までに得た物では、どうだろう」

聖莉「バスケット部の予算ですか」

立会人「譲渡はできるんじゃないかな」

亜呼「いや、バックギャモン部の許可証だろ。欲しいのは」

  皆の視線が亜呼へ向く。

惣之助「それは、そもそも本末転倒」

亜呼「いいのだよ」

  亜呼はゆうに顔を向ける。

亜呼「どうだ。バックギャモンで、こいつら『雑草研究部』に勝負を挑んでは?」

ゆう「お前……」

惣之助「(声のみ)雑草の研究? マジ?」

  ゆうは頷く。

  亜呼は微笑む。

  ゆうはふりむいて、もう一度、五人へ指差す。

ゆう「ならば、三対三で、バックギャモン勝負だ!」


16 中庭・夕暮れ


  ゆうだけ一人離れて座る。体育座りで、膝に顔を埋めている。


17 (回想)バックギャモン部の教室前


生徒A「勝ちの数ではなく、バックギャモンのルールに則った、ポイント制で行きたいのだが?」

亜呼「何?」

ゆう「フン。いいだろう」

惣之助「あ……分かって、返事してないね」

  亜呼は雑草研究部の面々を見回す。

  研究部たちは目配せをして、にやりと笑う。

亜呼(M)「こいつら……」

  惣之助、彩には、元バックギャモン部が当てられた。

  ゆうには全く知らない男子が当てられる。


 18 中庭・夕暮れ


亜呼「あいつら、初めから、あれを狙ってたんだ」

彩「油断でした」


 19 (回想)バックギャモン部の教室前


  惣之助、彩は勝利して、それぞれ1ポイントを得る。

  ゆうが席に着く。

ゆう「よし、楽勝じゃないか」

生徒B「よろしく」

  生徒Bが向かいに座る。

ゆう「おう!」

  ゆうと生徒Bは握手する。


 20 中庭・夕暮れ


惣之助「あんな勝ち方も、あるんですね」

亜呼「バックギャモン勝ちっていうんだ」


 21 (回想)バックギャモン部の教室前


  盤の上には、ゆうの駒のみ。

  一個もゴールしておらず、一個だけ、相手陣地に残っている。

亜呼「バックギャモン勝ち……」

彩「3ポイント……」

ゆう「なんだって……?」

生徒B「僕の方が少しだけ運が良かったみたいだね」

  生徒Bは立ち上がる。

  喜ぶ雑草研究部。

  ゆうは、盤を見つめたままうなだれる。


 22 中庭・夕暮れ


聖莉「バックギャモン勝ちは3ポイント。結果は3対2なので、向こうの勝利となってしまいました」

亜呼「わざと二勝させたのも作戦だ。汚い奴らだ」

彩「でも、勝負は勝負だ」

惣之助「そうだね……」

  惣之助、彩、亜呼、聖莉は、ゆうがうなだれているのを見ている。

ゆう「ちきしょう……ちきしょう……」

  惣之助達は顔を見合わせて、苦笑を浮かべる。

  亜呼がゆうに歩み寄る。

  ゆうの横でしゃがむ。

亜呼「君に言うことが、二個ある」

  ゆうは顔を上げない。

亜呼「あたしは、君たちに部を託したこと、後悔していないよ。寧ろ感謝してるんだ」

ゆう「だって、バックギャモン部が……」

亜呼「残念だったけど……。いずれ、消えた部だ」

ゆう「大事だったんだろ? 守りたかったんだろ? それをオレが……」

亜呼「勝負を申し込まれた時点で、廃部は覚悟していたんだ」

ゆう「そう……なのか?」

  亜子は頷く。

亜呼「でもね、君たちが来てくれた。あの瞬間、あたしは、ここまで頑張ってきて良かったな――って、本気で思ったんだよ」

  ゆうは顔を上げる。おもいっきり泣き顔。

ゆう「ごめんよ。負けて、ごめんよ」

亜呼「気にするな」

ゆう「絶対、オレは感知会を立ち上げてみせるから」

  ゆうは大声で泣く。

  亜呼は笑顔で見守る。

  離れた所の惣之介たちも見守る。

惣之助「それは峠田さんには関係ないね」

彩「まあ、いいではないか」

聖莉「ですね」

  夕暮れの校舎。



 エンディング


Cパート


23 中庭から続く渡り廊下へ・夕暮れ


  三人は歩いている。

  ゆうはまだ泣きべそ中。

彩「ところで、今、訊くのも何なのだが」

ゆう「別に、良いぞ……」

彩「感覚外知覚学研究会とは、何をする部活なのだ?」

ゆう「さあ?」

彩「さあ?」

  彩は足を止める。

  ゆうと惣之助も足を止める。

惣之助「知らないんだよね、僕たち」

ゆう「じいちゃんがやってた、ってことしか聞いてないんだ」

惣之助「うん」

彩「そう……なんだ……」

  再び、三人は歩き出す。

ゆう「心配ないさ! 前進あるのみ!」

彩「そうか」

  間。

彩「でも、聞いておいてね」

惣之助「ですよね~~」


(終わり)

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【シナリオ】小日向ゆうは立ち止まらない Emotion Complex @emocom

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