第6話 毒蜘蛛の糸

 犬島部長は港区の外れにある隠れ家に戻ってタブレットPCでレン・ ロンが入った雑居ビルの管理をしていたと思われる不動産会社を調べていた。

 不動産会社の社名は「株式会社東方住居テナント」で中国人による土地売買が盛んになっていた時期と同時に不動産投資の価値が暴落しているタイミングで破産しかけていることが分かった。現在は「東亜生活不動産」 と言う名前になっているが代表が中国とルーツがある人間である事が何よりの証拠だった。

 WEB上で調べると東亜生活不動産は大手や一部上場企業とまではいかないが都内の一部繁華街や住宅地の土地や建物を買収して賃貸や売買取引で利益を上げていた。

 東亜生活不動産の代表取締役の氏名は江河剣ジアン・ヘチァで中国からの帰化人で日本名は恵川憲伸えがわ・けんしんと名乗っている。

 「全く、変な名前だな。まあ、日本人の俺からしたらそう感じるだけで大陸では普通の名前か。」

犬島部長はそうつぶやきながら、不動産を探し続けた。

 物件を探してみると富裕層や中間層の住人や上京したての社会人、学生が住むための普通の住居もあれば会社や店舗を経営していくために使われるテナントや事務所、レンタルオフィスなども貸し出して収入を得ているようだった。

 その頃、雪本はまだ活動に慣れて居ないため流多古と一緒にレン・ロン達中国の臓器売買に関与している人物リストに載ってあった開業医の張り込みを雑談しながら続けた。

 「ところで陸自辞めたは警察にいたんだっけな。なぜ戻って来た。まだ警察の方が安定して自衛隊よりも待遇は良かっただろう…?」

「まあ、確かにそうですが結局、そっち(自衛隊)の方が良いような気がして出戻りましたが結果的に何が人生の正解か答えは出せずじまいですね。」

 「警察辞めて自衛隊に戻ってきて警察みたいな事をしてる辺り、可笑しな話だな。って何か来たぞ。」

 流多古が慌てて作戦用のカメラで写真を撮って他の要員が用意したリストを確認する。

「奴ら國田組の幹部だ。しかも若頭の大山雄一おおやま・ゆういちに若頭補佐の佐光元さこう・げんの2人いて後は若衆の連中だ。そんなに人数多くないし、お見舞いか院長との打ち合わせか何かだろう。」

 「あ、医者らしき人が現れました。」

「病院の院長さんだ!何か会話するみたいだな。」

流多古がレーザーマイクと呼ばれる録音装置を準備して盗聴を始める。

 「東郷寺の野郎、取引リストと顧客情報の詰まった資料を中国人に貰いに行ったきり帰って来やしねえ!というかバックれたか?」

「まだ複製したデータはあるなしろ違うところに持って行かれたら厄介だぞ。」

大山と佐光はリストの事を話していた。

 リストのことは犬島部長が回収しているから流出の心配は無いが、裏社会の連中は執念深いのがほとんどだから探すのに関しては躍起になるだろうが、事が起きる前にこっちで解決できるから正直問題はない。だが、問題はレン・ロンら中国の連中も黙って無ければ下手したら疑心暗鬼で仲間割れして対立するか、警察に捕まる前に国外へ逃げられる可能性がある。

 「レンという中国人にどう伝えれば良い?もし、情報が漏れた原因が俺らなら確実に首を跳ね飛ばされるぞ。そして組長もご立腹だからな。」

「下手したらこの病院も摘発される可能性があるぞ。」

「うるせえ!黙ってろ!デブ!ブタ!ウシガエル!マッドサイエンティスト!こっちはこっちで考えてんだ!医療事故の慰謝料や賠償金を立て替えたのはどこの誰だと思ってる!ぶっ殺すぞ!」

保身に走りかける院長に大山はキレ散らかしていた。

 「あーーークソ!東郷寺の野郎!あいつ妙に頭切れるからな。特にビジネス、好きなことに関してはな!警察に持っていけば間違いなく報奨金、そして別の組織に売ればその倍額。横取りされたら中国の連中が黙っちゃあいない!」

大山は変わらず癇癪かんしゃくを起こしている。

 前田が携帯電話を確認すると「中国の連中と顔合わせするから事務所に戻ってこい。」とメッセージが来ており、大山に携帯電話の画面を見せた。

 「組長と中国人に会う前に対応策を説明できるようにしておけよ。」

大山はそう言ってと中堅の部下と院長を連れてアルファードに乗った。

 「雪本!奴を尾けるぞ。おそらくレンもいるはずだ。犬島部長にメッセージ送ってくれ。対象移動、尾行開始!って送るだけで良い。」

流多古はそう言って大山達が乗ったアルファードを追い始める。

 都内の道路は渋滞しやすいのか街中なのもあって車での尾行もしやすいし、よほどな事がない限り勘づかれてカーチェイスになる心配もない。

 気持ち悪いぐらいに地味ながら尾行も上手く行き、一通り、顔合わせすると思われる豪快な宴会場を把握することもできたから後は潜伏して大山ら國田組を道連れにレンを捕獲もしくは始末するのみである。

 流多古は肩掛けのショルダーバックにサイレンサー付きのイングラムM11サブマシンガンを入れており、今回のメイン武器として使えるように準備した。

 「おい、お前用にもあるから入れておけ。」

雪本にもイングラムM11を渡して、雪本は大人しく、バッグに入れ込んだ。

 宴会場となる場所は國田組が採算が合わなくなった居酒屋を秘密裏に買い取った店だから実際のところ、所有権は國田組にある。そのため、特務情報部にとって隠密行動ではなく消音器サイレンサーを付ければ暴れても良いですよと言わんばかりだった。

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変な特務機関〜今日から天珠を下します。〜 ピンクッティー @pinkktty

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