第5話 煌びやかなネオンの陰へ②

「例の物を受取りに来た。中国人は時間にルーズなのか?とはいえ軍医官ならスピードが命だろ!仲間の兵士を救えないぞ。」

東郷寺が男が遅れたことについて突っかかるように話す。

 「いらんお節介だぞ!それに軍医官とか広々と口に出さないでくれ。いつどこで聞かれてるか分からん。ほら!約束の物だ。」

男は流暢な日本語で言い返しながら書類などの資料が入っているカバンを東郷寺に渡した。

 「中国政財界や軍、警察と共有していた我らの臓器売買、移植、人身売買の取引先や顧客の管理、連絡先が積まった情報資料だ。もし漏らしたらどうなるか言わなくても分かるだろう。組長にもよろしく言っておいてくれ。」

男は東郷寺に忠告の言葉だけを並べて取引現場から去って行った。

 東郷寺は近くから道路沿いへ向かおうとしたが、犬島部長が先回りをして自動拳銃の銃口を彼へ向けた。東郷寺は突然銃口を向けられたことで動揺している。こっちに向いている銃口には消音器(サイレンサー)がついており、種類はSIG−P226だった。

 「 逃げよう、抗おうなんて間抜けな事は考えるなよ。このカバンが欲しいだけだからな。大人しく渡してくれるなら身の安全は保証するし命も助ける。」

犬島部長は半分、交渉人モードになって東郷寺に説得を試みた。

 「あんたは見たところ公安でもなければサツでも無いな。まずは自ら名乗りだせよ!何者なんだよ!」

 「今、そんな事気にしなくていい!こっちはこのカバンごと渡してくれればそれで良い!同じ事は何度も言うつもりはないよ!」

 犬島部長は威嚇射撃で足元を撃った。

 東郷寺が胸の内ポケット2手に入れて咄嗟に銃身が短い38口径の回転式拳銃を出したところを犬島部長が彼の手を撃つ。9ミリパラベラム弾が東郷寺の手を直撃して血が飛び散った。

 オ・チンティンは驚きながらもカバンを奪って犬島部長に渡す。

 「ところでこのカバンを渡してきた男は何者なんだ?中国語も話してただろう。」

「奴はつい最近、中国から入国してきた闇医者で元々は中国人民解放軍で医官をしていたらしい。名前はレン・ロンだったけな。臓器売買の斡旋がメインだったはず…」

東郷寺は手の痛みと次はどこを撃たれるか分からない恐怖であっさりと中国語を話す男の正体を犬島部長に教えてしまった。

 「貴重な情報をありがとう。」

 犬島部長はそう言って東郷寺の頭を撃ち抜いた。

 そして携帯電話のメッセージで証拠隠滅を得意とする清掃班に連絡をして後処理を頼むようにした。

 9ミリ弾で頭を撃ち抜いたとはいえど今どきのヤクザでも海外勢力も使用しているから、最悪な場合にはメディアや裏社会に潜伏している要員に裏社会における抗争で殺されたように見せかければ良い。しかし、その前に清掃班がいる以上はそこまではしなくても良い。今までも熟練のプロ達で任務を遂行してきたのだからと犬島部長は確信した。

 「ところで中国人の尾行はどうなった?」

犬島部長は携帯電話で確認する。

 「俺らの存在に全く気づいていませんよ。そのまま継続します。」

 亀頭は犬島部長にそう伝えるとレン・ロンの尾行を続けた。

 亀頭は作業員風の格好に頭はバンダナをしており周りの人達から見れば普通のどこぞかの土木作業員にしか見えない。完全にカモフラージュ効果を発揮しているし、よほどバレるストーカーまがいな動きをしない限り相手も気づかない。

 港区なだけで煌びやかな分、警察の巡回も白昼より多いし職務質問されたらレン・ロンを逃してしまう。そうなれば拠点を特定する事も難しく任務は失敗になる可能性が高い。何事もないように警察官やパトカーから距離を置いて尾行を続けた。

 徒歩で歩いて時間かかるとはいえ、時間はかからないはずだし時間かかるならタクシーなり車なりで移動手段を使うはず。そう思って尾行を続けたらネオンの裏側と言っても良いぐらいの雑居ビルにレン・ロンが入って行った。

 一見、そこまで大きくはなく古くてボロい建物だが内装は綺麗で丈夫にしてるパターンだと悟った。その方が目立たないし国内での活動にもってこいなのだろう。

 「犬島部長、奴のアジトと思われる雑居ビルを発見しました。中は確認できませんでしたが、古いレンタルオフィスみたいになっているのが特徴です。」

「よくやった。亀頭。とりあえずは特定できた事だし引き上げよう。レンの周囲に誰がいるのかも入念に調べておかないとな。」

「分かりました。では、引き上げます。」

亀頭は犬島部長に報告をして任務完了を伝えられると安堵のため息をついて撤退した。

 

 翌日

 ネオンの輝く夜から一変明るくなり、朝が来ると犬島部長は菓子パンにコーヒーを口にしながら地図にレン・ロンが入っていった雑居ビルを調べた。

 不動産会社は関係ないというか、おそらく誰かが雑居ビルを個人で不動産投資の感覚で買っていてそれをさらに中国の連中が買収したのだろうと推測できる。

 調べて見ると管理していた不動産会社は数年前に潰れており、最近では外資系の不動産会社がこぞって日本に進出してきていることも知ることができた。

 これからは外資系不動産会社の概要とレン・ロンとの繋がりある連中について洗いざらい探るつまりである。

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