第3話 特務情報部

  日本には最近、ドラマの影響で都市伝説化されている自衛隊秘密部隊「別班」や漫画に出て来るSR班、そして実在して地下鉄で化学テロを起こした教団を調べ続けている公安調査庁、日本版CIAとも言われている内閣情報調査室などが代表的に知られているが、日本政府も自衛隊の一部の幹部しか知らない超法規的で特級機密の機関が政府の承諾を無しに密かに設立された。

 それが「防衛省特務情報部」である。

 90年代に入りバブル経済は弾けて不況に陥り失われた10年が続き、その社会不安に付け入るようにカルト宗教が台頭してしまいには地下鉄で化学兵器が撒かれるテロが起き、そして日本政府、政治家、官僚達の国民に寄り添わない政策がこれから先も続くことが示唆されて防衛庁(現在は防衛省)に勤務していた一部の2士から叩き上げ幹部らは頭を抱えていた。

 そこで当時の統合幕僚監部の佐官らは上層部の察知されないように密かに特務情報部を設立。日本の国土と国民、動物、財産を防衛するためなら同盟国が相手でも同胞でも容赦しないというスタンスで運用することとなった。

 人員は当時、調査隊などの要員で密かに集めていたが、時折自衛隊を辞めた者や日本に帰化する上で問題のない外国人などを協力者として埋め合わせをして現在にいたる。

 これまで特務情報部の存在は将官クラスの幹部自衛官や政治家にも調べておらず、万が一、その存在が知られてしまえばマスコミ騒ぎどころではなくなってしまうことは明白だった。

 特務情報部設立以降、要員は自衛官もいるが基本的に表向きは民間人として活動して生活しており、隊員名簿からも表面上消去されている。

 それから裏社会において地域情報収集、暗殺、ストーキング、潜入、資金作りなど言いだせばキリが無いぐらいの任務を遂行してきた。ベースは大韓民国の軍情報司令部に近づけている。

 

 「以上が特務情報部になります。」

と犬島部長は特務情報部の歴史を振り返った。

 犬島千羽和部長は元々は陸上自衛隊陸上幕僚監部第二部の調査隊員で心理戦防護過程を主席で卒業した実績の陸上自衛官だった。今は無き2年で必ず3等陸曹に昇進できる一般曹候補学生として入隊して以降、第42普通科連隊(第42即応機動連隊発足の為、現在は廃止)本部管理中隊の情報小隊で勤務していたが、2等陸曹までの道のりは遠いとして連隊長、中隊長、第8師団付隊長からの勧めで幹部候補生試験を半ば強引に受けさせられた。レンジャーに行くか幹部になるか迫られたのである。

 福岡県久留米市にある幹部候補生学校を卒業してから情報科に職種変換をして小平学校でさらなる教育を受けて現在に至る。普通科連隊に戻りたく無い一心で佐官まで登り詰めた。

 特務情報部は犬島部長にとって天職である。基本的に民間人として活動しているため、迷彩服を着て灼熱の太陽の下で穴を掘り、白い雪の凍える夜に斥候したりしなくて良い事は超絶にラッキーだった。

 ヤクザ組織に潜伏していたスキンヘッドの亀頭は元々、福岡駐屯地に駐屯している第4偵察戦闘大隊出身で当時、部隊名が第4偵察隊だった頃から所属していたが、偵察能力と索敵力を買われて犬島部長にスカウトされ、特務情報部に入り潜入捜査官として数多くの任務を遂行してきた。

 そして流田古は沖縄の那覇駐屯地に駐屯する第51普通科連隊の狙撃班として勤務しており、狙撃能力を見込まれてそのまま仲間入りした。

 一般部隊勤務から突如、非合法任務に引きずり込まれた雪本にとって最初に会った同僚であり、正直メンツと個性的な存在感に戸惑いを感じていた。

 「今、現在は不動産なり企業の株なり赤い国に買収されているとはよく聞くが裏社会も完全に喰い込まれているな。」

犬島部長は亀頭から貰った資料を見ながら独り言を呟く。

 日本は景気が停滞し続けていることで少子化も進んでいる一方で外国人なども増えて一部では国際都市までできるほどだった。特に中国人の富裕層による土地の売買や移住者が増えており、その中でもマフィアなどの犯罪組織が増えたり、中東や東南アジアからの犯罪組織も台頭するようになり特務情報部の仕事も増えていく一方である。

 特務情報部の存在そのものは自衛隊の情報保全隊などの防諜部隊や幹部陣でさえも知られないようにしないといけないが故に同じ自衛官でも完全に仲間とは言えなかった。その為、人員選びも慎重にしなくてはならず口が軽い人間なんて論外も同然である。そして米軍のほとんどにも知られていないし知っている者がいてもほとんど協力関係を築く上で信用が証明された上層部しかいないのも現状だった。

 組織編成としては一般人として街中に溶け込んだ諜報班、電子や電波、ネット、SNS、暗号を調査するシギントの役割を担う通信班、全国各地の諜報班の抜け目を補填して報告、連絡、相談を担う連絡班、そして諜報員のバックアップに周る強襲班などがある。強襲班はCIAの支援に回る特殊部隊SADを参考にした特殊要員と準軍事組織を組み合わせたような存在である。

 そして強襲班の先遣隊として委託された純軍事組織となる人種不問の協力者で集めた秘匿特別行動隊「Fate seeker《フェイトシーカー》」があり、彼らはダーティーワーク《汚れ仕事》を行っていた。

 中国系朝鮮人(中国北東部系)とモンゴル人の血が薄く交わった大陸系帰化人4世であるオ・チンティンもフェイトシーカーの要員であった。

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