#9 めぐりめぐるは恋の毒
「神力使いで
「──俺は一体、どうしたらいいんですか?」
「原因が分からんことには、不幸体質の改善などそうそう容易にはできる話ではない。何なら、俺がお前と代わってやろうか? そうすれば
悔しくなり
「
「人々が
「それなら、早く日彦命への信仰を回復させないと」
「──無理だ。人々から忘れられつつある神の信仰の回復など、そうそう簡単にできる話ではない。日彦さまを甦らせることができるのは、月姫さまだけだろう。しかし、お
かつては
──あまりにも悲しくて切なすぎて、言葉が出ない。
彼らは本当にそれでいいのか?
つづらが言う。
「月姫さまが日彦さまのいる常世に
「……」
「諦めろ、神力使い。簡単な話ではない」
「
「無理だ。日彦さまが消えてしまえばオレも消滅する。第一、オレが日彦さまを見捨てていけるわけがない」
──どうすればいいんだ、俺は?
神力使いとして何もしなくてもいいのか?
「──大丈夫です。これまで夏輝くんが頑張ってくれた分、私が現世で頑張りますから」
俺の気持ちを察したのか、いつものように優しげに微笑む美月さん。
これまでの怪異によるトラブルだって、みんなで力を合わせてようやく何とかなっているぐらいなのに、美月さん一人でどうにかなるはずがない。
──彼女に何かあったら俺は。
不意に、カナカナカナカナ……と
鳥居の向こうに、懐かしい
美月さんが言った。
「──現世への帰り道が開いたようです」
──ついに、別れの時が来てしまった。
「兄者、またいつか
「──つづらよ、そうは言っても常世と現世は
「現世に帰る前に、その
この
「……いえ、私には
もはや訴えてもいいレベルだと思うのだが、
俺は、白蛇つづらをぎゅっと抱きしめた。
ひんやりとした白い
「つづら、今までありがとう。俺、つづらのことをずっと忘れないよ」
──うっかり気を抜くと、
「ナツキ。キミには困難を乗り越えられる力が
「俺、頑張るよ」
涙をこぼすつづらをそっと抱き上げて、美月さんへと
つづらが美月さんの肩に乗った。
しばしの間、見つめ合う俺達。
「──夏輝くん。今まで、ありがとうございました」
「俺の方こそ本当にお世話になりました。宿禰さんと千鶴子さんに、よろしく伝えてくれると嬉しい。──それから、巴にも」
「夏輝くんが来てくれてから毎日が楽しかったです。私、まだ夢の中にいるみたいで」
少し寂しそうに
「俺も」
どうか
他にも山ほど伝えたい言葉があるのに、こんな時に限って出てこない。
「きっとまた会いに行きますから」
「俺も絶対に逢いに行くよ」
交わすのは、守れるかもわからない約束。
悲しいけれど、それが今の俺達にできる精一杯だった。
「……必ずですよ。それまで元気でいてくださいね。──それでは」
美月さんが俺に背中を向け、鳥居をくぐる。
俺達を、別の宇宙へと
鳥居の向こう側に
艶やかな長い髪がなびいて、見慣れたセーラー服の
──俺のかぐや姫が、月の都へ帰ってしまう。
一度だけ振り返ると、つづらと一緒に笑顔で手を振る美月さん。
手を振り返す俺。
ダメだ。涙が溢れてしまいそうだ。
鳥居の周りにかかった
──
願わくば、どうか最後にもう一度だけ、彼女とつづらの姿を。
思わず心の中で願った時、
たなびく
鳥居の向こう側では、顔をくしゃくしゃにした美月さんが
「……夏輝くん。……なつきくん……」
美月さん、泣いてる?
まさか、今までの笑顔は、無理して作っていたものだったのか?
その時、俺の中で、何かが
俺は地面を蹴ると、鳥居をくぐって美月さんのいる
──めぐりめぐるは恋の毒。
恋は人を狂わせ、思いも寄らぬ行動をさせてしまう『毒』。
元の世界に戻る道をむざむざ引き返した俺は、本当の馬鹿なのだろう。
そう思うけれど、もう自分の心を抑えることができない。
既に全身を恋の
美月さんが、指で涙を拭うと顔を上げた。
そして、俺の姿を見つけて目を丸くする。
「夏輝くん! なんで戻ってきたんですか? 早く……早く
「やっぱり俺、君を置いてこのまま帰れないよ。──もうしばらく、
そう伝えた瞬間、美月さんが泣きながら俺の胸に飛び込んできた。
イラスト
https://kakuyomu.jp/users/fullmoonkaguya/news/16817330663863702214
可愛いミニ漫画を描いていただきました!
https://kakuyomu.jp/users/fullmoonkaguya/news/16817330663864402242
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