#7 俺の好きになった人が巫女さんだった件【後編】
「さよならなんか言うなよ。確かにふられたのはショックだった。家に帰れなくなって、違う学校に通うことになったのも計算外だった──でもそのおかげで俺は、新しい環境で多くのご
雪那の背中が、
後ろを向いたままのその顔は見えない。
「あたしも、雪那を失いたくない。だって、あたしたち親友だよね?」
ゆりあが後ろから雪那を抱きしめた。
「ゆりあ……」
雪那が振り返って俺に向き合うと、
「夏くん、あの時はひどいことを言ってごめんなさい。クラスの男子にからかわれて、素直になれなくて……。本当は夏くんが……ずっと好き……だったの……」
いつもクールな雪那の顔が涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていた。
「いいんだ。──俺、嫌われてたんじゃないと分かって嬉しかった」
力なく
「でもそれを認めてしまったら、夏くんに負けてしまうんじゃないかって思って。負けず嫌いでごめんね」
「負ける? 俺は、
そう言うと、雪那は少しずつ落ち着いた様子になった。
「本当にそう思ってる……?」
「うん。完敗だ、雪那には」
俺が両手を挙げて
ゆりあが美月さんに頭を下げた。
「美月ちゃんだっけ。助けてくれてありがとう。改めて、あたしは白川ゆりあ。この子が
「
「さ、さっきはハンカチを有難う……洗って返すわ」
横目で美月さんを見た後、そっぽを向く雪那。
美月さんがふふっと微笑む。
「別に返さなくてもいいですよ。雪那さんに差し上げますから気にしないでください」
「あんたに借りを作ったままの状態だと私が気になるでしょ!」
「あはは……では、お任せします」
勢いを取り戻した雪那に、美月さんが苦笑している。
「そう言えば、白川さん。さっき私に何か質問していましたが……」
「ゆりあでいいよ。美月ちゃんって、瀬戸くんとどういう関係なの?」
動揺する俺の隣で、美月さんが少し考えながら答えた。
「私と
「……か、『家族』?」
「お、俺……いま美月さんの実家の神社に下宿してるんだ」
「なんだ、下宿か。焦っちゃった。美月ちゃんは神社の子だから物の怪に詳しいんだ?」
ゆりあがほっとした顔になる。
「……話の
珍しいものでも見るような目で美月さんを見る雪那。
「これからは三人ともライバル同士、お互い正々堂々とがんばろうよ。私はもっと自分を磨くから。雪那と美月ちゃんには負けないからね」
ゆりあが笑顔で宣戦布告し、困惑した様子の美月さん。
「あの……私は、ゆりあさんや雪那さんのお友達という訳にはいかないのですか?」
「ふふっ、ダメ。ライバルだよ」
「そうよ! さっき会ったばかりのあんたが友達なわけないでしょ! それから、ハンカチ返してお礼もするから、また必ずこっちに顔出しなさいよ!」
「そんな……」
ゆりあが笑った。
「美月ちゃん、気にしなくていいよ。雪那がこういう事を言ってるってことは、もう友達ってこと。……瀬戸くん、また高校に戻ってきてくれる?」
「……ああ。いずれまた、近いうちに」
俺の肩に移ったつづらが言った。
「ナツキ。さすがにそろそろ急がないと」
「わ、分かった! 美月さんの帰りの時間があるからちょっと送ってくる!」
「まだ六時前だよ? ……っていうか、その白蛇ちゃん今喋らなかった?」
「……えーっと……終電が早いんだ! それと、白蛇は守り神だから言葉が話せる」
「……まじ? だって蛇だよ?」
「終電がこんなに早いなんて、どれだけ田舎なのよ!」
美月さんとつづらを連れて走り出す俺。
桃色とオレンジ色のグラデーションに染まっていく夕焼けの中に、手を振るゆりあと雪那が見える。
俺も美月さんも、負けじと手を振り返す。
雪那が大声で叫んだ。
「美月ちゃん! あんたには夏くんを渡さないからね! それと夏くん! 必ず
「あはは……どうしましょうか……」
「やっぱ
戦慄(せんりつ)していると、美月さんがぴしゃりと言った。
「女難の相と言うよりも、複数の女の子に優しくしていたのが原因では?」
ぷいと背を向け、俺を追い抜いて先に走って行く美月さん。
「ちょっと待って。何か怒ってない?」
「──別に怒ってなどいませんよ」
「嘘! 絶対怒ってるでしょ。待ってよ!」
あの神社の大鳥居まで、あと少し。
俺達は
イラスト
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