#4 たとえ闇に葬りたい過去でも

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鳳凰市ほうおうしの男子高校生が四月から行方不明】


「──行方不明になっているのは普賢高校ふげんこうこう二年の瀬戸夏輝せとなつきさん、十六歳。

 明るい性格の瀬戸さんは、一年生の時に高校のミスターコンテストで準グランプリを受賞しています。

 警察では、友人関係等のトラブルがなかったかを調べています。

 瀬戸さんに関する情報提供があれば、鳳凰警察署までお寄せください」


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 顔写真付きの記事を見つつ、俺はため息をついた。


「やっぱり行方不明者扱いになってる……」


「夏輝くん。早く警察へ行った方が良いのではないでしょうか?」


 美月さんが心配そうに言った。


「いや。保護されてしまったら、つづらと美月さんを送ることができなくなる。とにかく今はあの神社へ行くのが先だ」


「そうですか……」


「ところでナツキ。キミは、ミスターコンテストの入賞者だったのかい?」


「いや、あれは俺にとっての黒歴史くろれきしと言うか……」


「夏輝くん、かっこいいですもんね。写真が今より少し幼いと言いますか。可愛いです」


「そ……そうかな?」


 美月さんに言われて、顔が火照ほてるのを感じつつ頭を掻いた。


「あの時、俺がコンテストのステージに立っていたのは、わずか三十秒だったんだ」


「普通はポーズを決めたり、自己アピールをしたりするものでは?」


「いや。恥ずかしい話、自己PRタイムの間、腹痛でトイレにいたせいで、グランプリは逃した。それさえなければ、俺は今頃、富豪ふごうになっていたはずだった……」


「ああっ、やはり不幸……!」


「そんなに短い時間でよく準グランプリを射止めたもんだね」


 コンテスト終了後、『トイレにいながらにしてミスターコンに入賞した男』という衝撃しょうげきエピソードでしばらくの間有名人になっていたというまわしい過去かこは伏せた。


「だけどキミがそういうのに進んで出る性格に思えないんだけどね」


「クラスの奴が面白がって勝手に応募してさ。取り下げようとしたら優勝賞品がギフトカード二万円だったんだ。……俺は遊ぶ金が欲しかったんだ……」


「……何か最後の方は刑事ドラマの自白じはくシーンのようでしたが、夏輝くんの意外な一面が見られたのは興味深いです」


 美月さんがふふっと微笑んだ。


「え。そんなに面白かった? 俺にとってはやみほうむりたい過去かこなんだけど……」


「そんなことはないですよ。ステージに立つのにも度胸どきょうがいったと思いますし……」


 なおもくすくすと笑い、顔を上げる美月さん。


現世うつしよにいる間に、夏輝くんのことをもう少し知りたかったです」


──ああ。虹彩こうさい魅惑的みわくてききらめいて、今にも吸い込まれてしまいそうな。


 俺の方こそ、君ともっと色々な話をしたかった。

 胸が高鳴るにつれ、自分でも信じられないような恥ずかしい言葉が心の奥から出てくる。


「……俺も美月さんのことをもっと知……」


「はっ……もうこんな時間です!」


 時計を見て慌てた様子の美月さんに、俺は出かけた言葉を引っ込めてしまった。


「そうだった。とにかく、神社へと急ごう」


 なるべく人目につかないルートを選んで普賢ふげんガーデンモールを出た。

 

「暑いっ……!」


 ガーデンモールを出ると、灼熱しゃくねつの陽光と熱風が俺達を容赦ようしゃなくおそい、美月さんが小さな悲鳴を上げた。


「異常気象が続いているんだ。さっきいた普賢ガーデンモールの庭園は温度管理されていたけど、一歩外に出ると灼熱地獄が待ってる」


「そうなんですか……」


 街角にいくつも設置された大型ディスプレイには、ニュース映像が立体的に投影されている。


【──非常に大型で強い台風 予想積算降水量は四十八時間で最大五百ミリ】


【──【●●県で震度4】▲▲時▲▲分ごろ、●●県で最大震度4の地震 今後の情報に注意】


「常世では、災害がこんなに頻繫に?」


 焼きつけるアスファルトの道を歩きながら美月さんがいた。


「ああ……地震や集中豪雨はしょっちゅうあるよ」


「──常世は、私の想像とは少し違っていました」


 この常世は国家による管理社会だ。

 国民はすべて番号で管理され、窮屈きゅうくつに暮らしている。


 とみ再配分さいはいぶんされず、貧富の格差かくさは開く一方。


 技術の発達により、教育、医療、司法しほうといった専門分野ではAIやロボットが活躍している。


 細胞不死化さいぼうふしかの研究が進み、平均寿命もかなり延びている。


 海洋はプラスチックで汚染され、海水面の上昇でいくつかの都市が水没している。


 資源枯渇しげんこかつが進み国同士の緊張が高まる一方で、一番不足が危ぶまれている資源は『水』だ。


 そのせいで、第三次世界大戦の勃発ぼっぱつも近いなどと言われているが。


「この常世を創世そうせいされた日彦命ひのひこのみことは、この異常事態をどう思っておられるのでしょうか……」


 美月さんの問いに、肩の上のつづらが言った。


「ボクは前回お会いできなかった。神殿に閉じこもったまま出てこられないみたい」


「このままでは常世はいずれ……」


 そう言うと、悲しげな顔でだまり込む美月さん。


──住宅街の向こう側に、鎮守ちんじゅの森が見えてきた時、背後から懐かしい声がした。


「──瀬戸せとくん?」


 思わず振り返ると、俺のかつてのおもびと──白川ゆりあがそこに立っていた。


イラスト

https://kakuyomu.jp/users/fullmoonkaguya/news/16817330661462072348

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