#8 神格では敵(かな)わなくとも
「
俺は大声で叫んだ。
「最初の約束通り、雨を降らせてください」
「──雨は降らせてやろう。ただ、神力使いよ。お前は神を
悪王子の美しい瞳に宿るのは、
「死して
俺は
「どういうつもりだ?」
「見ての通りですよ。雨を降らせてくださらなければ、貴方の
悪王子が鼻で
「
「──
宿禰さんが立ち上がり、
「はるか昔。わが先祖の
今までは、祭神の悪王子神の顔色を
「──神格では
宿禰さんの言葉に、悪王子がぐっと言葉に詰まった様子を見せる。
ゆっくりと悪王子の元へと歩いてゆく宿禰さん。
「お願いでございます。どうか、雨を。雨をお降らせください」
「お願いいたします」
「……
悪王子が
「悪王子よ。この山と民を守るのが、貴方と蓬莱家の約束。約束は
雲間から
目の前に
「お久しぶりです──姉上」
悪王子が頭を下げ、
「あ……姉上?」
驚いている俺達をよそに、ヒルメ様が
「悪王子。もう娘は必要ないはずです。既に障りは取り除かれ、正しき
「……確かに力は戻りました。しかし」
姉神であるヒルメ様を前にして悪王子が
「姉上。私は決めたのです。月姫神社の巫女を
「いつまで
「月姫命とのことは、私の中でまだ折り合いがついておりません。
悪王子が雨を降らせてくれない原因は神力の衰えではない。
蓬莱明光に
蓬莱明光はもうこの世にはいないし、この期に及んで月姫命が心変わりをするとは思えない。
──どうすればいいんだ。あと一歩なのに。
俺は必死に
重く暗く
まるでこの世の終わりを見ているかのような
悪王子が美月さんに手を伸ばす。
「──さあ、オレと一緒に来い」
美月さんが表情を硬くして
「何故そのような顔をする? なぜ笑わぬ?」
俺が必死になって美月さんを助ける方法を考えていた時、美月さんの
──それは、一輪のピンクのユリの花。
俺はつづらを肩に乗せると、ふらつく足で一歩一歩地面を踏みしめてユリの元へと進んだ。
──ユリの花が咲きそうです。
月姫神社の境内で、輝くような笑顔を見せていた美月さんを思い出す。
今はもう、遠い昔のことのように感じるが。
「
悪王子が憎々しげに舌打ちをして、美月さんの腕を引っ張る。
俺は
「この
悪王子の瞳から青い火花が散るが、予想通りすぐに
美月さんの手を取った状態で神雷を放てば、彼女を巻き込むことになるからだ。
悪王子が彼女の手を離すよりも早く、俺はユリの花を美月さんへ向かって差し出した。
美月さんが俺を見て、目を丸くする。
「──私に?」
「うん。美月さん、確かユリが好きだったから」
美月さんがそろそろと手を伸ばし、俺の差し出したユリの花を受け取った。
そして、そっと胸に花を抱きしめる。
「有難うございます。──嬉しい」
──久しぶりに見た。
この笑顔を見るために俺は生きているんだ、とさえ思えるような。
信じられない、と言った様子で
「馬鹿な。きらびやかな衣裳よりも、野の花一本で喜ぶとでも言うのか?」
美月さんが
「──ユリは、
──
大粒の
乾いた地面が一斉の雨を受け、白い
「雨だ」
やっと、やっと降ってくれた。
最後の最後に神の感情を
雨を浴びながら、全員が
イラスト
https://kakuyomu.jp/users/fullmoonkaguya/news/16817330656559543015
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