#7 死闘
ついに、悪王子神が
三メートル程度の高さから
アコーディオンのようにくねる長い体をその場に残したまま、その平たく巨大な頭部が音もなく平行移動して、俺と巴に狙いを定める。
まるで、頭部と体がそれぞれ別々に意思を持っているかのような不気味さを感じる。
「いかん。二人とも下がるんじゃ!」
宿禰さんの声に我に返り、俺も巴も後ろに飛びすさった。
その着地の瞬間を狙って、驚くほどのスピードで大蛇の頭部が飛んで来る。
大きく開いた口中に光る、二本の鋭い牙。
反射的に右手を出し、白く輝く神力を撃つ。
──効かない。
普段からつづらの神力に頼り切ってしまっている俺には適切な対処が思い浮かばない。
「ナツキ、逃げて!」
つづらが悲鳴のような叫びを上げた。
悪王子神の頭部が、信じられないほどのスピードで俺めがけて飛んで来る。
「
すがりつく宿禰さんを、悪王子がその長い首で振り払い、口中にかませた
よろめき倒れる宿禰さんを、
「──
巴が足を一歩前に踏み出し、呪文を唱える。
つづらが、「きゃっ」と悲鳴を上げて俺の
巴の体から強い光が放たれ、悪王子を威圧する。
全身をくねらせて苦しみだす悪王子。
「──
「巴、その呪文は?」
「中国の古い本にある
「悪いがつづらに影響のないように頼む。こっちも蛇だから」
「
悪王子の全身が青く輝く。
たちどころに俺達を襲う、青い神雷。
すぐさま神力で
「もう一度だ。──
巴が唱え終わる前に、悪王子が十数メートルはあろうかというその身をアコーディオンのようにくねらせ前進したかと思うと、いきなり巨大な頭部をぶつけてきた。
俺は飛び上がってかわしたが、巴が打たれて後方へと吹き飛び、地面に倒れた。
「巴!」
俺の着地を待って、再び飛んで来る大蛇の頭。
──何というスピード。
噛みつかれるかと思いきやその動作はフェイントで、俺はいつの間にか大蛇の長い体に取り囲まれていた。
大蛇が恐るべきスピードで巻きつき、つづらごと俺の身を
ぎちぎちと締め付けられてゆく体。
肺とつづらを守ろうと
──苦しい。
このままじゃ
目下には、何とか身を起こそうとしている巴と宿禰さんが見える。
「げほっ」
《全身の骨を粉々に折ってやろう。その後でゆっくりと
どうすればいいのか。
物理的な攻撃には神力が効かないようだから、何とか回避して本体を。
──ダメだ。痛すぎて、考えるどころではなくなってきた。
宿禰さんが再び雨乞いの
湿った風が体にまとわりついてくる。
あともう一息で、雨が降りそうな状況。
「──
そして、
蛇降伏の呪文を聞いた悪王子が再び美青年の姿へ変化する瞬間を狙って、俺は残る
解放された瞬間、
先程の一撃に続き、今回の手ごたえもはっきりとしたものだった。
《おのれ!》
悪王子の全身から強大な青い雷が
そして、俺めがけて落ちてくる神雷。
巴の結界が俺の周囲に張り
続いて、つづらの神力が青い雷を
悪王子が倒れた俺めがけ、続けざまに神雷を放つ。
後はつづらの神力と悪王子の神力の
悪王子の青い神力と、つづらの白い神力がぶつかり合い、力を削り合う。
しかし、相手は神様。
力の底は知れず、徐々に神雷のエネルギーが強さを増してくる。
俺が押し負けてきたのを見かねた巴が次々に俺とつづらの周囲に結界を張ってくれるが、破られる速度が次第に増してくる。
「やばい。防御がもう持たない」
「夏輝くん!」
社の後ろに隠れていた美月さんが、俺の前に飛び出してきた。
「お願いです。どうか、みんなの命だけは」
大蛇に
美月さんが大蛇を見上げた。
覚悟を持った、強い光の宿った眼差し。
「美月さん」
美月さんが目を伏せ、静かに言った。
「──夏輝くん。私からすれば、夏輝くんやおじいちゃん、巴くんの命の方が大事なんです」
そして彼女は、鈴の音のような涼やかな声で告げた。
「──私は、悪王子さまの妻になることを」
「駄目だ。それだけは……」
そう言いかけて、ふと気がついた。
──宿禰さんの
イラスト
https://kakuyomu.jp/users/fullmoonkaguya/news/16817330656506093917
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます