#5 俺達流の雨乞い
⛩⛩⛩
ついに決戦の日――
神事の準備に入ろうとした時、悪王子社の扉の隙間から、
一瞬、何が起こったのか分からず、目が釘付けになる。
「いかん!
忌津闇神──厄や
時間が経つと力を増すので、すぐに対処する必要がある。
宿禰さんが祭具の中から紙のたくさん下がった棒──
黒い霧が液状に形を変え、宿禰さんの大幣を回避して俺の目の前へ飛び出る。
左の手のひらに意識を集中し、球状にまとめたつづらの神力をぶつけると、忌津闇神が黒いタール状の
悪王子が胸を押さえながら、ゆっくりと息を吐きだした。
「大丈夫ですか」
俺を見る切れ長の瞳が妖しい輝きを放っている。
本当に、見とれるほどに美しい男神だ。
「神域の結界が
ぞくり、と刺すような殺気。悪王子が冷ややかに
「た、大変に申し訳ございませぬ」
やがて、社の奥で青い光が輝くのが見えた。悪王子の
「無事に社の『
──ついに始まった。
神前では、正装姿の
「──雨を降らせ
「断る!」
ごほん、と咳ばらいをして、再度祝詞を復唱する宿禰さん。
「断る断る断る!」
以下繰り返し。
「俺、神様が祝詞を拒否しているところなんて初めて見た」
「ああ。悪王子様のご機嫌は最悪の状態か。じーちゃんが気の毒すぎる」
ひそひそ声で呟くと、巴も同情の瞳で頷いていた。
宿禰さんの笛の音に合わせて、流れるような動作で舞う美月さん。
「ほう。見事な舞であることよ」
うっとりと舞を鑑賞する悪王子。
社の
──まだか。まだなのか。
俺は、悪王子と灰色の曇り空を繰り返し交互に見ることをただ繰り返していた。
「おかげさまで、雨乞いの神事をつつがなく終えることができました」
「宮司よ。神事が終わったのに力がまだ戻らんぞ」
「そんなはずは」
「約束通り
悪王子がゆっくりと立ち上がると、
居ても立っても居られず、俺は悪王子の前に立ちはだかる。
「どういうつもりだ!」
「もう少しだけ待ってもらえませんか。少し時間が経てば──」
「無駄だ。戻らぬと分かっているものを、待っても仕方がない」
悪王子の視線に
「美月さん。俺達で何とかするから、少し離れていて。諦めるのは、どうしようもなくなった時だ」
少し黙った後、真剣な目で頷く美月さん。
「──分かりました。ですが無理だけはしないでください」
「虫けらが、よほど死にたいと見える」
それが戦闘開始の合図。
──俺達流の雨乞いには、二通りの方法がある。
一つは、
もう一つは、悪王子神の神力を全て放出させた後につづらの神力で悪王子神を封印し、雨を降らせる交渉に持ち込む方法。
これらの二つの方法のうち、どちらかで雨が降れば上々だが、いずれにしても悪王子の五回の
そして、
悪王子の周囲に青い稲妻が
──来る。
その雷が俺とつづらへ向かう前に、
「──東方は
俺の周囲に、きらきらと輝く
「おい巴。もっとこう、結界を厚くできないのか? こんな薄絹じゃなくて、防護シャッターぐらいに分厚くだな」
「ど素人が
巴が俺を
「そもそも夏輝は神力の扱い方自体が
「何だって? もう一回言ってみろよ」
「──楽しくお喋りしている暇はないぞ!」
悪王子が雨雲をあやつり、青い雷を落とす。
短い高音が連続して空気を切り裂く。
巴の結界の中で、俺は右腕を天にかざし、神力で
落雷を受けた巴の結界が、悪王子神の神雷の力を
とにかくまずは、一回目を耐えた。
その間を見計らって、つづらの
つづらの迷いが吹っ切れているためか、右腕に送られてくる
「こしゃくな」
悪王子が自らの体の周囲に青い稲妻を
再び、悪王子の全身が青く輝きはじめる。
先程よりも強い威力の神雷が来る予感。防衛に注力することにする。
「
「無茶言うな。そんなのできるわけないだろ! ──東方は
そう言いつつも、一応は試そうとしてくれる
「……あれ。できた」
拍子抜けしたかのような
たちどころに
残りの神雷は、つづらの神力で防ぐ。
これで二回、大きな神雷に耐えることができた。
「腹ただしいにも程がある!」
悪王子の激しい怒りの
すかさず神力を大量に注ぎ、ノーガード状態の巴の周りに障壁を張った。
雷が、つづらの神力の壁に
これで三回目の攻撃に耐えた。
神力の残量はあと半分程度。ぎりぎりで耐えられる計算だ。
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