#3 人身御供(ひとみごくう)
悪王子社の扉は開いたままだ。
奥の
漂うは、
悪王子が美月さんへ向かって右手を差し出すと、次々と
「
何も答えず、ただ
「まさか、
「──悪王子さまは、なぜ私を妻に迎えたいとおっしゃるのですか?」
「ようやく口をきいてくれたな。
「私の霊能を?」
「そうだ。そもそも、そなたの先祖のせいでこのようになったのだから
悪王子の言葉に、黙ってうつむく美月さん。
「理由は分かりましたけど、それを美月さん一人に
「夏輝くん」
俺の声に、美月さんが
少しは冷静になってくれるかと期待したが逆効果だったようで、悪王子の眉間には深い
「宮司よ。この
怒気を含んだ大声が、その場の空気を揺らす。
怒鳴りつけられた
「た、大変申し訳ございません。
──美月さんのお兄さんが、神職の仕事を嫌っている?
「この悪王子に仕える
悪王子が、湿り気のこもった目で
「どうか、ひらにご
「
温度のない声で宿禰さんに告げた後、悪王子が俺を
「
悪王子の右手に神力が渦巻き、青い雷が
「──嫌です」
「……何だと?」
「夏輝くん。早くあやまってください。私のことは気にしないで」
「早く失礼をお
みんなが必死でわめいているが、俺は動かなかった。
「……俺はあなたの力に屈する気はありません」
俺は
ここまで来たなら、最後まで神の意志とやらに逆らってやる。
「
俺はとっさに右手を高く差し上げ、つづらの
悪王子が憎々しげに言った。
「この
──
その言葉に驚いたが、のっぴきならないこの状況。
右腕を流れる
さすがに相手は神様だけあって、その辺の
いつもは助けてくれるつづらが、すっかり
このままでは身がもたない。
「どこまでも
悪王子の全身が青く輝きはじめる。
静かな怒りに燃えるその目は、
──蛇は
白い
「……」
目を開ける。
──雷は、落ちていない。
俺の前に立っていた悪王子が、ぐらりと
「どうなされたのですか」
俺の後ろから
「力が
──助かった。
思いがけぬ
⛩⛩⛩
俺達は、社務所へと戻った。
「息子夫婦に続いて、今度は美月まで……?」
千鶴子さんがうっ、と
「宿禰さん。
「いや。いま相談したところで、あの子の反発を
旭陽さんというのは、どうやら美月さんの兄のことらしい。
先程の宿禰さんの話と二人の短い会話から、
つづらを抱いた
もしかして、怒っているのだろうか。
「……
「ご、ごめん!」
「夏輝くんに何かあったら私……」
美月さんの目からぽろぽろと涙がこぼれた。
手の甲で涙を拭い始める美月さん。初めて見るその涙に思わず動揺してしまう。
「あーあ。夏輝ったらみーちゃん泣かせちゃった」
目を
「何もしなかった巴に言われる筋合いなんてないけど?」
「だって仕方ないでしょ。相手は神様だよ? それも
「そうじゃ。夏輝くんや巴くんに何かあっては、わしらは生きてはおれん。美月を心配してくれるのは嬉しいが、無理をしないと約束しておくれ」
「分かりました。でも、そもそもどうして悪王子が美月さんと結婚したいのか、俺にはよく理解できません」
「夏輝くん。神や人の
「四つの魂?」
「うむ。四つの魂を『
「そう言えば、前にも似たようなことがあったよ。悪王子さまの『みたま』が
つづらの言葉に、一同が驚きに包まれる。
「だけど、月姫様には恋人の
「それなら、悪王子をわざと怒らせて雨を降らせてもらえばいいんじゃないか?
「しかし、
「──いや、今の弱り切った状態なら意外と勝てるかも知れないよ?」
イラストhttps://kakuyomu.jp/users/fullmoonkaguya/news/16817330653747769144
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