#8 蝗害(こうがい)の終焉(しゅうえん)
俺の右手から放たれる輝く
「
「おとなしくしたらどうだ。
そう言って振り返ると、横笛を吹く
美月さんが日の丸の扇を高く
しかし態勢を立て直し、再び美月さんに襲いかかる。
「調子を狂わす
──優しく慰められるのは心地よいが、人間達の仕打ちは許せない。
恐らくはそう言った所だろう。
けれど、
やぶれかぶれになった残りの数千のイナゴが後退し、態勢を立て直すと再び拝殿に向かって突っ込んでくる。
俺は
しかし、数が多い。
境内にアオサギ達が次々と舞い降り、参道の両側から青い炎を吐いてイナゴ達の勢力を削ぐが、やはり全てを食い止めきれそうにない。
「うっ」
「お前達人間さえいなければ」
──ごめん。
再び襲い来る罪悪感。
その時、
同時に上空から巴の両手に舞い降りる、青紫色に輝くたくさんのかそけき光。
参道を走る巴の手に舞い降りる鳳蝶が、その手の中で何十枚もの
巴が指で操作すると、宙に浮かび上がった呪符が次々とイナゴ目がけて飛び、ぶち当たった。大量のイナゴの御霊が消滅していく姿を見て、巴が
「もしかして、同情を
巴がさらに呪符を飛ばして、残りのイナゴの群れにぶつける。月夜の下、巴の
「あはははははっ!」
巴が
茅の輪を目の前にして、よろよろと引き返そうとする
その力は
巴が呪符を投げつけ、
アオサギ達が吐く炎を強める。
拝殿からは宿禰さんの笛と、美月さんの
最後に、俺とつづらで神力を一気に放ち、白く輝く光でイナゴの集団を茅の輪の中へ押し流した。
イナゴの
「……終わった」
あちこちで起こったまばらな
宿禰さんに
「何ボケっとしてんだよ。僕達も月姫神社の関係者だろ。行くぞ」
巴につつかれ、俺も巴と一緒に拝殿に上がる。
宿禰さんと作道会長の言葉に合わせ、俺達も参加者に向かって一列に並び、一礼する。
境内の中央には大松明が赤々と燃え、参道の両側には、数十羽のアオサギ達が整列して青い輝きを放つ。
「これにて、虫送りと除蝗祭が無事に終了しました」
「皆さん、本当にありがとうございました」
再び巻き起こる
挨拶の声を聞きながら、俺の作道会長に対する印象が、以前とは少し変わっていることに気づく。
人の間に立って苦労している姿しか見ていなかったけれど、あの
それに、
「皆さん、お疲れ様でした。この後は
作道会長の呼びかけに、大勢の人がぞろぞろと移動していく。
拝殿から作道会長と宿禰さんが降りて、境内を歩いて行く。
境内にじっと立っているのは、アオサギ達の
それぞれ違う立場で、複雑かつ微妙な
俺は、
三者の立場のバランスには非常に危ういものを感じる。
俺は、月姫神社に物の怪を入れることを良しとしない
宿禰さんが、涼風とアオサギ達に向かって口を開く。
「
そして何と、涼風とアオサギ達の群れに向かって、深々と頭を下げた。
「そちらの
「そうでございましたか」
「月姫神社の
「私は町内会長の
「いや、礼を言うまでのことはない。しかし、お互いに大変な立場と見える」
「そうですね。
作道さんが何でもないかのように笑う。目が細まって、笑い
「そうか。人間の世界も、アオサギの世界も似ているのだな」
──涼風が高らかに笑った、その時だった。
ドォン、と鋭く重い音が遠くから鳴った。アオサギ達が驚いて羽をはばたかせる。
「
美月さんが身を
巴が顔を上げて鳥居の向こう側を見つめた。
「そういえば前に、
あの夜、俺と美月さんが届けた回覧板にそんな重要な情報が書かれていたとは。
中身をしっかりと読んでおけばよかった、と強く後悔した。そうすれば、アオサギ達に情報を伝えてあげられたのに。
「よりによって今日だなんて。タイミングが悪すぎる」
体全体から血の気が引いていくのを感じる。身を
──続けて、銃声がまた一発。
さらに、もう一発。音がだんだんと大きくなる。
動揺した十数羽のアオサギ達が、
「待ってくれ。アオサギ。ただの空砲だ。逃げないでくれ」
俺は叫んだ。しかしその言葉も空しく、残ったのは涼風と
側近たちが、翼をはためかせて騒ぎ出す。
「見損なったぞ頭領。だから言っただろう。人間はいつか裏切ると」
「人間に
残ったアオサギ達が、涼風を
「やめてくれ。涼風は何も悪くない!」
俺は叫びながら間に入って涼風をかばったが、アオサギ達の怒りは止まなかった。ギャーギャーと鳴いて、涼風をつつこうとする。
「ナツキ。やめるんだ。かばえばかばう程、涼風と君との距離の近さが
肩の上のつづらの声に我に返り、俺は力なく腕を下ろした。
「涼風の顔を潰すことになってしまった。ごめん……人間って、身勝手すぎるよね。自分たちの利益優先で」
だめだ。涙が
「いや、これは我の責任だ。神力使いよ、お前さんは悪くない。
「立場って。立場って、なんだよ。それがあるから何の意味があるって言うんだよ」
立場だとか役割だとか、前に巴が言っていた
町内会長が地面に
「涼風さん、申し訳ありません。この通りです。お許しください」
「
その言葉を聞いて、一つだけ思い当たることがあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます