#4 位牌山(いはいやま)の怪
⛩⛩⛩
三十分後、社務所で
せっかく巴も揃ったのだからと、美月さんの声掛けで新しい
「けけけ。夏輝くんの御守りは、白蛇っていうよりダンゴ虫だね」
「うるさいな。使い慣れていない素材だから扱いづらいんだよ。誰だよ、水引を御守りの材料にしようって言ったのは」
「つづら様です」
「あー、つづらだったのか。
「ゴメンね。でも無理だよ。ボク、蛇だから両手がないもん」
「そういえばそうだ」
「じゃあさ。気を取り直して、手すきの和紙。さて、これを
巴が作業台の上にあった高級和紙を取り出して折り始めた。
「巴くん、発想が素晴らしいです。でも、
「いや美月さん。全部言ってるから。巴のそれ、白魂というかどう見ても化け物……」
さすがの白魂達も
「もう
「ここまで来ると、納期に間に合わせる場合は
「あーあ。完全に
「巴の化け物守りと一緒にな」
あまりにも不器用すぎる俺達に、御守りの
それでも何か思いつくかも知れないと、時間の限りアイディアを出し続けた。
まあ、最後の方はほとんど俺と巴のけなし合いになっていたが。
社務所の窓からぎゃあぎゃあと鳥の鳴き声らしきものが聞こえた。
「アオサギ達かな?」
「いえ、
「カラスだよ。
巴が
「位牌山?」
位牌と言うと、亡くなった人の
「私は行ったことがありません」
黒々とした深い山を見つめる美月さんに、巴が言う。
「うん。普通の人はまず行かないと思う。あそこは
「禁足地って?」
「何かしらの理由で、足を踏み入れちゃいけない場所のことだよ」
巴の表情が急に真剣なものになったので、俺は思わず身を固くした。
「位牌山は昔いくさがあって、
わざとなのかそうでないのか、視線をさまよわせる巴を見ると、
「極めつけには、位牌山の中を流れる
「うわ。嫌な名前だな」
「その川の土は、赤黒い色をしててね」
「色も
「そこには魚がたくさん泳いでいるんだけどね。その川の魚が丸々と太っているのは……」
寒々しい空気の中、ごくりと
「川に落ちた武士の
切れ長の目をくわっと見開いて
後ろにのけぞる俺。
──ややあって、美月さんがふう、と息を吐いた。
「ああ、怖かった。巴くんって、本当に怖い話が上手ですよね」
「うん。
「え、今の怪談だったの? それとも実話?」
「半分は実話だよ。
「大丈夫なのか? 武士の肉を
「あのねえ。いくさから何百年経ったと思ってんの。それに釣った魚は最後にはほとんど逃がすし」
「でもいいのかよ、
「夏輝くーん。そもそもなんで位牌山が禁足地になっているか知っているかい?」
「いや……」
「近づかれたくない理由があるからだよ」
巴が周囲を確認した後、声を低くした。
「位牌山には、
「えええっ!」
「しっ、静かに。だから、位牌山とか血淀川とか、おどろおどろしい地名のいわくつきの場所にわざわざ大事なものを隠して、人を近づけないようにしているだけだよ。禁足地の意味なんかもうとっくに失われてるって言うのにさ」
「そうだったのか」
「知りませんでした」
「要するに本音と建前は違うってことだよ」
巴が得意気に笑った。
「それにしても、本心が見えないなんて、なんだかまるで巴みたいな山だな」
「何か言ったー?」
「いや、何でもない」
「要するにトモエ達は、釣り糸を垂れるふりをして埋蔵金を探してるってことだね」
「うっ、さすがはつづら様。お
ふと、
「それよりも夏輝もみーちゃんも、大丈夫なのか。この間からアオサギの話ばかりしてるけど、物の怪と少し距離が近すぎやしないか」
「大丈夫だよ」
「そうです。涼風さん達は、人に危害を及ぼすような物の怪ではありません」
「あいつらに完全に心を許しちゃだめだ。奴らと僕達は、住む世界が違う。
巴の言いたいことも分かる。でも、涼風はいい奴だ。心優しい物の怪と仲良くして、何が悪いんだ。
その時は反発を覚えたが、巴の
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