#2 戦略的プロモーション構想
千鶴子さんに続いてご挨拶をすると、座りなさいと言われたので隅の方に座った。
町内会長は、
「本日は
宿禰さんが身を乗り出したその時。
ミーと鳴き声がして、月姫神社の
宿禰さんと千鶴子さんが、
「宮司さん。そのヒトダマみたいなのは一体?」
物の怪の
「あれはその。何と言いましょうか、なあ千鶴子」
「そ、そうね。宿禰さん」
二人して
──いや、言い切った。
「あれは月姫神社のマスコットキャラクターです」
「マスコットキャラクターですと?」
俺は、その辺に置いてあった宿禰さんの
「はい。あの浮かんでいる白いふわふわは白魂と言います」
「しらたま……」
「はい。神社も新しい感覚で親しんでもらうことが必要なので、先月から
いつか、何かの動画でどこかの起業家が
「季節的な限定配布により白魂グッズのレアリティを高め、若い世代にインフルエンサーになっていただくことで、月姫神社の知名度を高め、今後の
「インフルエンザ?」
「インフルエンサーです。要は、大きな
「ははぁ」
俺の熱気に押され、大きく
語り終えた俺は、宿禰さんの老眼鏡を外すと、テーブルに置いて一息ついた。
老眼鏡は、どうにも度数が合わなくていけない。
「いやはや感動しました。若い人の考えることは面白い」
結局、話の中で白魂が何者なのかについては一切触れていないが、俺の話に納得する作道さん。
ごほんごほんとむせている宿禰さんと千鶴子さん。
その後ろで、美月さんとつづらが笑いをこらえきれず
町内会長が宿禰さんに向き直った。
「すみません。話がそれました。実は、今年も
「昨年に続き、ですかな」
虫送りとは、
民間行事だから、主体は神社ではなくこの町内の人々のようだ。
近年、
「
作道さんが深く頭を下げた。
これを町内の代表として伝えに来なければならないなんて、さぞや気が重かったことだろう。
聞いている俺の方が胃が痛くなりそうだ。
「虫送りをやめてしまって本当に問題はないのですかな?」
宿禰さんが白い
「町内会の総会では
「総会で決まったことなら仕方ないとは思いますが……」
口では了承しつつも、納得はしていない様子の宿禰さん。
作道さんが席を立った。
「では、虫送りの件はそういうことで。
社務所側の玄関に出て作道さんをお見送りしたが、俺はその場しのぎで適当な話をしてしまった負い目があり、怖くて宿禰さんの方を振り向けなかった。
物の怪を勝手に神社のマスコットキャラクターに
「夏輝くん」
背後から宿禰さんが俺を呼ぶ。
「は、はい」
「御守りは
宿禰さんからのお
彼女の目がきらきらと輝いているのが見える。
「いいんですか? 白魂を月姫神社公認キャラクターにしても」
「いや。あくまで非公認キャラクターじゃ。そこは
ミーミー寄ってくる白魂には構わず、難しい顔をして拝殿の方へ歩いていく宿禰さん。
俺は、嬉しくてたまらないと言った表情で近寄ってきた美月さんとハイタッチをした。そして、つづらの頭ともハイタッチ。
くすくすと笑い出した美月さんにつられ、俺とつづらも楽しくなって、暫くの間みんなで笑っていた。
⛩⛩⛩
「あの場で
「ホント、よくあんなにすらすらと言葉が出てくるもんだね」
町内会長が帰った後、俺達三人は茶の間で麦茶を飲んでいた。
「プロモーションはやった方がいいと俺は思うよ。さっきも、若い世代の
浴衣に着替えた美月さんがうちわで顔の周りをゆっくりとあおぎはじめた。
「虫送りは、
「イナゴは聞いたことがあるような、ないような」
「イナゴはバッタとよく似ているのですが、ウンカもイナゴも、稲を食べてダメにしてしまいます」
「じゃあ、
「はい。住民が虫を追い払うのが虫送り。イナゴの
「そうなんだ」
「虫送りは、全国どこでもやっているみたいだよ。
つづらが美月さんの
「青桐町では昔から、平家の武士である
「
「だけどさ。住民が『できない』って言ってるものは、仕方ないんじゃない?」
「そうなんですよね。それが難しいところなんです」
美月さんが口に手を当てて、小さくあくびをした。ずいぶん眠いのだろう、
「すみません。もう遅いので、おやすみなさい」
美月さんが二階へ上がっていく。
「え? まだ九時半だよね?」
神社の朝は早いので早寝早起きが身についているのだろうが、女子高生というよりおばあちゃんの生活サイクルに近いような気がすると俺は思った。
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