第6章 消えてゆく青い炎
#1 ゆらめく青き怪火
五月も終わりの夜、俺とつづらと美月さんは隣町近くの班長宅へ回覧板を届け、月姫神社へ帰ろうとしていた。
心地よい
点々とした家々の明かり。どこかの家の、
水を張った田んぼが夜の月に反射してきらめき、田んぼ一面からゲコゲコと聞こえるのは賑やかな
「あ……夏輝くん、池に落ちないように気をつけてください!」
夜の
「危なっ! 何でこんな所に池が……」
「この付近は
ふと、前方で青い炎がゆらめくのが見えた。
どう見ても蛍や焚き火の類ではない
「──もしかして。あれ、物の怪?」
俺達は畑の脇にあった小屋の
「大きな妖気ですね。一つだけではないようです。でもあの道が通れないとなると、ずいぶん遠回りしないと帰れなくなります」
「
美月さんとつづらが相談を始めた。
「俺、見てくるよ。やばかったら逃げるから」
「私も行きます」
右肩につづらを乗せ、神力を右手に溜めつつ、少しずつ青い炎に近づく。俺の後ろから美月さんもそろそろとついてくる。
思わず引き込まれてしまうような
大きさは一メートルから二メートルくらいだろうか。
「鳥が燃えてる?」
「
美月さんが小さな声で言うと、アオサギがゆっくりと首を上げ、目が合った。
意思を持った瞳に射すくめられる。
羽ばたきの音がして周囲を見ると、俺達の周囲に青く光るアオサギが何羽も
辺り一面が青くぼうっと光っている。
──気づくと、囲まれていた。
アオサギ達の目から感じるのは、
「人間だ」
「憎いな」
「焼き殺すか」
「美月さん、つづら、逃げ……」
言い終わる前に、アオサギのうちの一羽が羽根を広げて俺に飛びかかった。
「我々の
長い
「うわっ!」
すぐさま右腕で顔をかばいつつ、
青い炎が、白く輝く神力に打ち消されて消えた。
「なんだこいつ。神力を使うとは」
「
「残念ながらただの高校生だよ。お前達が何もしないなら、こちらも何もしない」
俺は言った。
「まさか。信じられん」
「それもこんな
「……お前ら全員シメるぞ」
むっとして抗議すると、ギャーギャー鳴いていたアオサギ達が静かになった。
「ところで、あなた方は何を怒っているのですか」
美月さんが
「お前たち人間に仲間が殺された」
アオサギに言われて周囲を見回す。
──それは、罠にかかって
「ずいぶん苦しかったでしょうね。お
泥まみれになった
「これをやったのは俺達じゃない」
俺が言うと、アオサギ達が
「
「恐らく、ここに罠をしかけたのは近くの
「そうだ。人間と言っても、いろいろいるんだ。俺はお前達を捕まえる気はない。なにしろ
ギャーギャー鳴きながら、相談をはじめるアオサギ達。
「我々をたばかるつもりだろう。人間なんぞ
「しかしこのままでは、
「
俺は戦意がないことを示すために両手を挙げ、
その
周囲をぐるりと囲むアオサギ達の突き刺すような視線に
少しでも誤解されるような行動をすれば、全ての方向からあの青い炎を浴びせられるに違いない。
右手で糸を持ちスマホのライトを消すと、今度は左手を上に向けて手のひらに
「アオサギ。少し火をくれないか」
そう言うと、捕らわれたアオサギが少し火を吐いた。
その青く美しい炎を、神力で
運んだ火を糸に近づけ、少しずつ焼き切る。
数か所の糸を切ったところで、ようやく罠が外れた。
「人間に捕まったかと思ったら、今度はまた人間に助けられるとは
助けたアオサギが立ち上がったが、背丈が俺とあまり変わらなくて驚いた。
「あんた、ずいぶん大きいんだな」
「ああ。二百年生きている。我の名は
「頭領。奴らが助けてくれたのは気まぐれです。そんな口約束をしてどうなっても知りませんぞ」
「そうです、涼風さま。そんなに簡単に人間に気を許すのはいかがかと」
涼風の後ろで、何羽かの年老いたアオサギが
「大丈夫だ。この者達は他の人間とは違う」
涼風がそう言うと、アオサギ達が黙った。
「信じてくれてありがとう。俺は
「
──ここへ来て物の怪と交流ができるとは思わず、俺の気分は高揚しはじめていた。
⛩⛩⛩
帰り道を、涼風を先頭にアオサギの群れが
夜のあぜ道を上空から
「なんて
「多分あいつ、
ふと、右側を見る。
目をきらきらとさせながら青鷺火を見つめる美月さんの横顔がとても綺麗で、俺は不覚にも見とれてしまっていた。
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