#5 デートの結末

⛩⛩⛩


「この間通りかかった時は営業してたのに……ネックレスに続いて、俺ってホントに運が悪い」


 あんみつでも食べようと訪れた甘味処かんみどころの前には、悲しくも「閉店のお知らせ」の紙が貼られていた。


 甘味処の前のベンチで、がっくりと肩を落とす俺。


「仕方がないですよ。なつくんのせいじゃないです。……あ、そう言えば。お二人とも、ちょっと待っていてくださいね」


 美月さんがベンチから立ち上がり、セーラー服のスカートをひるがえすとどこかへ走って行ってしまった。


 しばらくして戻ってきた美月さんが、手に持っていた紙包みをくれた。


「お待たせしました。どうぞ。熱いので気をつけてくださいね」


 思わず腹の虫が鳴るような、美味おいしそうなにおいがただよってくる。

 包みを開けると、こうばしいにおいと共にあらわれたのは、げたてのコロッケだった。近くの商店街で買ってきてくれたらしい。


「ありがとう。そう言えば、いつの間にか腹が減ってた」


「ふふ。キーホルダーのお返しです」


 サクサクとしたこまかめのころもむ。

 バターの香りを放つ甘いじゃがいもと、牛ひき肉の豊かな風味の絶妙なコラボレーション。

 コロッケが胃の中に落ちていくと、不思議と気持ちが落ち着いた。


 あたたかい食べ物が、こんなに人を幸せにしてくれるなんて。


「夏輝くん、今日は楽しい一日を有難うございました」


「いや。俺も楽しかったです……」


「それはそうと、どうして私にこんなに良くしてくれたんですか? せっかくのお小遣こづかいですから、夏輝くんのために使った方が良かったのではないかと思うのですが」


「それは……」


 美月さんに見つめられ、どう答えたものかと困っていると、向かい側から声がした。


「あれ、みんなどうしたんだ? こんな所で」


 振り向くと、買い物袋を手に提げたともえが立っていた。


⛩⛩⛩


 巴もベンチに座り、四人で並んだ。


「なるほどね。それで二人とも、あえて百々目鬼どどめきはらわなかったというわけか」


「ああ。いくら話しても、話が平行線でさ」


「あの女性がつみみとめなかったのではらいませんでしたが、果たしてそれで良かったのかと。悪事を働いたせいとは言え、体にものいているのは可哀想かわいそうな気もしましたもので」


 美月さんがひざの上に重ねた手を見つめた。


「まぁ、それでいいんじゃない。その女は、品物を盗むときのスリルを味わうのをやめられなかったんだろうね。原因はストレスか、世の中に対する不満か何かは分からないけどさ。でもそういう人間は、物の怪じゃなくて自分の心に原因があるから、本人がそれに気づいて改めるまで仕方がないよ」


 珍しく巴がもっともらしい事を言う。

 美月さんの表情に少し明るさが戻ったのを見て、安堵あんどした。


「巴もたまにはいい事言うな」


「まあね。それはそうと、夏輝くんたら。どうしてみーちゃんにプレゼントをあげようとしてたのかなぁ?」


 にやにやと笑い出す巴に、動揺どうようを悟られまいと平静へいせいよそおう俺。


「お前と違って、日頃から散々お世話になってるからだよ」


「僕の分はないのー?」


「あるわけないだろ」


「みーちゃん。こいつ下心があるから気をつけるんだよ。体育の時間、好色こうしょくな目でみーちゃんを見てたし。嫌だねぇ、がめ《※好色な男性》は」


「え、そうだったんですか? 夏輝くん」


 胸の前に手をかたいて、後ずさりする美月さん。


「違うわっ! このホラ陰陽師おんみょうじが!」


 一喝いっかつすると、巴がけらけら笑いながら走って逃げていく。


 空の向こうは夜になり始めていて、輝く星々の間には、あのムーンストーンのような月が静かに輝いていた。


■第4章、完結です。最後までお読みいただきありがとうございました!


■本作を少しでも気に入って頂けましたら、気軽に「作品のフォロー」&「星入力による評価」をお願いします!(★★★面白い、★★頑張れ、★まだまだ頑張れ)

(評価欄「★★★」は、アプリの場合は最新話の次のページに、PCの場合は右側の「レビューを書く」欄にあります。レビューを書かずに評価のみ行うことも可能です)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る