#10 繋がれる命
皆でタクシーに乗りこむと、無事に
「
「あんな所へ行くと、体調が悪くなるからだよ。周りの奴らなんてくだらないし」
「巴が来てくれたら、毎日楽しいのに」
「嫌だね。僕は絶対に行かない」
地雷を踏んだらしく、それから巴が口を閉ざしてしまい、車内が気まずくなってしまった。
巴がタクシーから降りるときに「今日はありがとう。また明日」と声をかけたが、振り返らずに行ってしまった。
後部座席で美月さんが言った。
「巴くん、中学の時にクラスで仲間から外されて、それから学校に来なくなってしまったんです。いえ、『外された』というのは
「語弊?」
「はい。あれは、
差別という言葉に引っかかりを覚えたが、美月さんの言葉を聞いて心の中に重い灰色の
それ以上は踏み込んではいけない気がした。
その
余計な一言を言ってしまった
「そうだったんだ。また俺、巴を
「でも、巴くんが学校に来なくなって寂しい思いをしていたのは私もなんです」
美月さんが
助手席から見るその表情はバックミラー越しにはよく見えなかったが、たぶん泣きそうな顔をしていたんだろうと思う。
⛩⛩⛩
翌日の教室。
登校してきた巴に、美月さんが声をかけた。
「おはようございます。──巴くん、今日は式神じゃないんですね」
よう、と手を上げると、巴もああ、と手を上げた。
「昨日はごめん。でも、本当に来てくれたんだな」
「──ああ。君があんまりしつこいから、仕方なく来た」
巴がぷいと窓の外を見やる。
美月さんが嬉しそうにくすくす笑った。
⛩⛩⛩
桜町神社の
境内に置かれた
「君達、先日はどうも有難うございました。お
抹茶に添えられたのは、一口サイズのあんころ餅。
餅の外側が甘いこしあんでくるまれている。
予想していたほどの甘ったるさはなく、熱い抹茶の苦みと共に口の中で爽やかに溶けていく感じだ。
「お抹茶のほろ苦さとこしあんの上品さがあいまって、何とも! お抹茶の泡があんこの美味しさを引き立てるのに良いお仕事をしています!」
隣では、美月さんがグルメリポーターと
ってか、どれだけあんこ好きなんだよ。
あんころ餅をいただいた後に、裕司さんが植木鉢を持ってきた。
みずみずしい桜の若木が植えられている。
「例の桜のご神木を、
ご神木から、小さい冠桜皇子が出てきた。五、六歳くらいの子どもの姿だ。
「か、可愛いです!」
美月さんが興奮している。
巴が青い顔で冠桜皇子からするすると離れて距離を取る。
「あれ、冠桜皇子って、田んぼの神様になったんじゃなかったんじゃありませんでした?」
「『
裕司さんが桜の葉を優しく撫でた。
「じゃあ、これで
「そうだね」
裕司さんが
「おいそこの三人。私と遊べ。そして私を
胸を張って命令する
「え。先日遊んだばかりだよね? その時にめちゃくちゃ
「足りぬ。
「まさか。あれだけお相手してご満足いただけなかったとは……」
遊びが下手と言われ、ショックを受ける裕司さん。
俺は巴の肩に腕を回してぐいと引き寄せ、耳元で
「おい
「あーあ。山の守り神を
巴から初めて名前で呼ばれたのを
「だってさ、この間みたいに命がけの
「巴くん、ぜひともお願いします」
美月さんも小さく手を合わせる。
「はいはい。出しゃいいんでしょ。……ああっ、冠桜皇子様の後ろに
巴がわけのわからないことを叫んで向こう側を指さした。
冠桜皇子が振り返っている
指先から滑り出した
「よし、かくれんぼだ。鬼を決めるぞ。じゃーん、けーん……」
冠桜皇子がじゃんけんを繰り出した瞬間、俺達の姿を
「姿を
遠い目をする美月さん。
「もう。トモエ、ツメが甘いよ」
「つづら様。んなこと言ったって一度に四体の式神を
「待て! 私と遊べ!」
後ろから
「あはは、あはは。楽しいぞ」
「あの状況から鬼ごっこに持ち込むなんて、やっぱり高校生は頭が柔らかいなぁ」
後ろで裕司さんが腕組みをした。
「裕司さん、感心してないで助けてくださいよっ!」
ああ、何という不幸。
俺達は日が暮れるまでミニ冠桜皇子から逃げ回ったのだった。
⛩⛩⛩
小桜山から持ち帰った桜の神木、繋がれる命。
冠桜皇子の胸に眠るは、
俺はただひたすらに、願う。
――これからこの桜町神社で、冠桜皇子が幸福な記憶を
⛩⛩⛩
イラスト
https://kakuyomu.jp/users/fullmoonkaguya/news/16817330654704436883
■第3章、完結です。最後までお読みいただきありがとうございました!
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