#9 歌詠み国守の見た景色
つづらもお
蛇は
「お腹もいっぱいになりましたし、みんなで山の上からの景色でも見ませんか」
社の裏側には、見渡すかぎりの
城を中心として
田んぼは水が張られ、
その奥には
「すごい」
──ああ、何という
まさかこんな
「私からすれば、
「いや。だってすごいですよ、こんな景色は中々見られない」
「確かに百年後にこの景色が見られなくなるのは悲しいよね」
つづらが首を上に伸ばした。
「そうかな? こんな景色、珍しくもなんともないね。ああ、田舎は嫌だ嫌だ」
巴が頭の後ろで腕を組んだ。
「そこな
「ひえっ……な、何でもございません。
さっき
でも、顔色が戻って良かったと思う。
「あの川はね、
俺の住んでいた
元は同じような世界だったはずなのに、たどる歴史が違うだけで、ここまで差が出るものかと驚いた。
「
美月さんが
「うん。俺の住んでいた
「ふっふーん。城の近くにザリガニが釣れる
巴が得意げな顔をする。
「え、マジで。いいなー、今度連れてってくれよ。俺、本物のザリガニ見たことないんだよ」
「教えない」
「ケチだな。ちょっとぐらい教えてくれたっていいだろ」
「巴くんがこういう言い方をしているってことは、つまり。夏輝くんとザリガニ釣りに行きたいということですね」
「ちょっと、みーちゃん。僕の気持ちを勝手に
「うふふ。どうでしょうね」
美月さんが口に手をあてて笑った。
もうしばらくここにいて、同じ時間を過ごしたら、俺もみんなとこんな風に仲良くなれるんだろうか。
そう思ったら、もう少しの間、
「あら?
美月さんが目を丸くして、俺と巴を代わる代わる見つめる。
俺からすると何も見えないのだが、
「俺と巴が?」
「みーちゃん、悪い冗談はよしてよ」
美月さんに詰め寄る俺と巴。
「はい。深く強い結びつきです。糸の太さで言うと、恋人や親友ぐらいでしょうか。でも、それだけに
「有り得ない話じゃないよ。もしかすると、二人のご
裕司さんも
「どうせ
巴が赤面しながら髪をいじりつつ、俺から目を
「と、巴。何顔を赤らめてるんだよ! 誤解を招くから! そこはすかさず否定しろよ!」
俺が必死になって
「人とはまことに、見ていて
赤い
「さて時間だ。お前達のお陰で楽しかったぞ。いずれまた会おう」
突然、冠桜皇子が桜の花びらに変わり、風に吹かれ山の下へと飛んで行く。
後には、辺り一面の
「消えた……」
「冠桜皇子様はこの山の守り神でもあるんだけど、
裕司さんが微笑んだ。
「そうなんですか」
「うん。神様は、姿を変えて自然の中を
後に残されていたのは、
「ナツキ。まさか、それを持って帰るつもり?」
つづらが聞いた。
「うん。確か、木って挿し木で増やせるものもあるんじゃなかったっけ。ご
「あら。それはいい案ですね」
美月さんが手をぽんと打った。
「それならば、この枝は桜町神社で
裕司さんが
「それと、できるなら
「もちろん。うちの神社は町の中にあるし、境内の桜たちも、冠桜皇子様を歓迎するだろうと思う。これからはお一人ではないはずだよ」
国守・
しかしその寂しさも、これからは少し紛れるのではないだろうか。
そうだったらいいな、と心から願う。
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