#7 残り百年の景色
俺が
「私があの木に登ります。
「美月さんが?
「だいじょうぶです。時間ももうありませんし、
「でも」
つづらが言った。
「ナツキ。ミヅキは小さい頃からよく木に登って遊んでいた。だから、ミヅキを信じて任せるんだ」
「わ、分かったよ」
美月さんが
⛩⛩⛩
「はじめ」
俺の
太い
心配だが、今は二人を見守るしかない。
早さは
いや、少しずつだが相手がリードしはじめている。
てっぺんの一枝をめぐって、二人が手を伸ばしポジションを
憑きものが美月さんの手を振り払うも、あきらめずに手を伸ばす美月さん。
二人の手が同時に木のてっぺんに触れた。
「
「さあ私の勝ちだ。約束通り、この体はもらうぞ」
憑きものが木のてっぺんで
「ちょっと待て。同着だっただろ。この
「いいや、私の勝ちだ。
暑くもないのに、俺の額からは冷たい汗がじわりと
──どうしたらいいのだろう。
憑きものは人に勝ちを
こうなるともう、相手の
なんとなくクラスで浮いているところも、俺と少し似ていたし。
口では嫌だと言いながらも今日はこうして来てくれたし、悪い奴じゃないんだ。
俺は心から
それなのに卜部を憑きものに渡すことになってしまうとは。
今何かしなければ、一生後悔することになる。
――俺の中で、それまで張りつめていた糸が切れた。
「この
これまでは
さっきまでの
「な、
「大体、卜部も卜部だ。こんなヤツに憑かれるなんて、明らかに
「なに。もう一度言ってみろ」
――いや、憑きものじゃない。卜部だ。
俺は平然と大きな声を出し続けた。
「あー、憑きものに身体に入ってもらえて楽だよなあ。式神に代理出席してもらっているのと同じでさぁ。この後は自分の人生を
「す、好きなこと言いやがって! 君にいったい僕の何が分かると言うんだ!」
卜部が顔を真っ赤にして叫ぶと、
――それは、
「つづら、力を貸して。憑きものを引き
「オーケー、ナツキ」
つづらの全身が白く光り輝き、俺の右手に
つづらの力を込め、木のてっぺんに向けて放つ。強くイメージすると、右手から放たれた白い光が
「へえ。憑きものを
「夏輝くん、すごいです。神力の使い方が前よりも上手くなっています」
「ああ。
右腕を空に向けて伸ばしたまま、俺は答えた。
ふくれっ
その隣では、
「あなたと桜の大樹の間にご
「いかにも。この地を
冠桜皇子は
俺は
「どうして人を困らせるような真似をしたんだ。そんなに相手をしてほしかったのか?」
「ふん。自分の
「存在が消える? どういう意味だ」
「その昔私は、この木を植えた
「
美月さんが言った。郷土の国守であり、
冠桜皇子の心にある
この山で、冠桜皇子と
「しかし、国守が死んで時が流れ、気づいたのだ。あと百年もすればこの山の
周囲を見渡すと、華やかに咲き誇る桜の隙間に、まだ
確かに、この樹々がいずれ成長し、自分達よりも勢いを増していくことは、冠桜皇子達にとって大きな
「日の光を浴びられなければ、我々は
それであんなに、構ってもらいたがっていたのか。
「なるほど。この山で満開の桜が見られるのも、あと百年という訳ですか」
声がして振り返ると、
二十代前半くらいだろうか、
落ち着いていて張りのある、伸びやかな声。
「
「
「大丈夫ですよ。時間ぴったりです」
神職が
「
「どうも」
俺と
「冠桜皇子様。申し訳ありませんが、さすがに
桜町宮司が眉をひそめた。
「
「駄目だ。他の誰かに
俺は右手を光らせて、
「だいたい、人間に憑いて
「分かった。もう人間に迷惑はかけない」
「悪いがそうしてくれ。何かいい方法を考えるから」
俺がそう言うと、冠桜皇子が諦めたように笑った。
「ふん。誰が人間の言うことに
冠桜皇子が、赤い水干の両腕を大きく広げ、天を
「私は本来、明るく
「では、今日は冠桜皇子さまのために、せいいっぱい
美月さんが深々と頭を下げた。
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