#1 朝拝
「ナツキ」
名前を呼ばれて目が覚めた。
こざっぱりとした六畳間に、
ここが
隣では小さな白蛇のつづらがとぐろを巻いていて、俺が起きたのに気づくと「おはよう」と言った。
「ナツキ、少しは元気になった?」
「ありがとう。おかげさまで昨日よりは」
「それは良かったよ」
つづらが首を気持ちよさそうに伸ばした。
時計は六時半。太鼓の音が響いてくる。
スマホはやはり、
電子マネーユーザーの俺は、ここへ来て
──家族との突然の別れ。
俺がいなくなった『常世』では、今頃大騒ぎになっているだろう。
それにしても、行方不明の原因が女子にフラれたから、というダサい話になっていたら困る。目撃者も何人かいた記憶があるし。
俺はスマホをポケットに突っ込んだ。
──過ぎたことをくよくよ考えていても仕方ない。
今は
⛩⛩⛩
つづらを肩に乗せて部屋を出ると、
そこにあった
桜の花が舞い落ち、ピンクに染まった参道には提灯や屋台がまだ残り、花火の後のような
拝殿には紫の
太鼓の音と早朝の冷たく引き
「あれは何の
「
「毎朝?」
「うん。神社って結構大変なんだよ。神様がおられるから気軽に留守もできないしね」
「そうなんだ。俺には無理だな……」
つづらが見ていろと言うので、拝殿の外から朝拝の様子を見学していると、宿禰さんが俺に向かって手招きをした。
明るい光の差す
「さて、
神前には米、酒の他に昆布やするめ、
宿禰さんが、俺の頭上で白木の棒に細長い和紙を幾つも束ねた
ふわふわとして心地よく、心が澄んでくるような気がした。
そして、最後に宿禰さんの笛に合わせた
扇と鈴を頭上に高く掲げ、祈るようにして鈴を細かく振る彼女。その鈴の音に、心が洗われる。
思わず引き込まれてしまうほどに、美しい舞だった。
「ここでは多くの
「ありがとうございます」
御守を首から掛けた。
心身が綺麗になって、自然と背筋も伸びる気がする。
「ちょっと待っていておくれ」
宿禰さんが
何かを探すような物音がした後、宿禰さんが手に古い木箱を抱えて戻ってきた。
木箱の中には、古い巻物が納められていた。
「我が
美月さんも
巻物には
──月と太陽。
「はるか昔。ここ
自分の
「常世が現世の複製……? そうなると、俺の存在も誰かのコピーという事になるんじゃ……」
「安心しなさい。わしの知る限りでは二つの
その答えに
「どうして
「ボクも分からないんだよ。お
つづらが悲しい顔になった。
この辺りは、あまり
「月姫命と日彦命は、
宿禰さんが巻物を木箱に納めた。
「
「そうですね。見えないだけかも知れないけど、
「えっ。そうなんですか」
今度は俺の隣で、
「俺の住んでいた
「ふむ。常世とはずいぶんと技術の発達した世界のようじゃな」
「まるで未来の世界のお話を聞いているみたいです」
「色々便利だけど
「
宿禰さんが
それにしても、片方は情報技術が発達し、
元は一つの世界だったという
イラスト
https://kakuyomu.jp/users/fullmoonkaguya/news/16817330656559543015
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