#6 蓬莱家の人々
午後八時半を過ぎ、春祭りも一区切りついたらしい。
ダイニングでは休憩中の
椅子に座って待っていると、
お祭りで忙しいはずなのに、手の込んだ食事に驚かされる。
両親が共働きで忙しい我が家の朝食はシリアルやカロリーバーがほとんどだし、普段の食事も洋食中心なので、温泉旅館のような和食がとても新鮮だった。
つづらはお
宿禰さんの合図に従って、
「いただきます」
香りの良い
米粒がつやつやと輝いて、自然な甘みが感じられる。
「どうしたらこんなに
「あら、嬉しいわ。この地域は昔から水が綺麗だから食べ物も美味しいのかも知れないわね。おかわりもあるわよ」
千鶴子さんが微笑んだ。ホタルイカを噛むと、柔らかくぷちっと弾けて、ほろ苦さを含んだ中身が口の中に広がる。
どの料理も、驚くほどに美味しい。
そして、小鉢の中の巻貝の煮つけ。
「これ、どこかで見たことがあるような気がします」
「ばい貝※の煮付けよ。今日はお祭りだから」
「思い出した。これ、小さい頃に祖母の家で食べたことがあります」
「嬉しい事が
「へえ……」
つまようじで身を取り出して食べてみると、甘醤油が貝の柔らかな白い身に沁み込んでいて、とても美味しかった。
「ばい貝は宿禰さんの好物でね、神事の無い日は
無言でばい貝をつついていた宿禰さんが
俺の隣では、美月さんが上品な
「
「うちでは全然食べないんです」
そうなの、と千鶴子さんが言った。
俺の住んでいた
おまけに、魚や貝には大量のマイクロプラスチックが
それを考えると、
気づくと、喋っているのは俺と千鶴子さんだけで、宿禰さんと美月さんは無言で料理を食べている。
喋りすぎたかなと思っていると、千鶴子さんが言った。
「ごめんね、静かでしょ。実はね、うちは
「そうだったんですか。すみません」
「少しぐらいならいいわよ。ねえ、美月?」
隣の美月さんが顔を上げた。
──昔話に出てくるお姫様みたいな、長い綺麗な黒髪ときめ細かな白い
「はい。ところで、夏輝くんの制服ってすごくお
「うちの高校の制服、有名デザイナーのブランドらしくて。まあ、私立だから生徒数の確保に気合いが入ってるみたいで」
「そうなんですか。この辺りの高校は学ランとセーラー服が主流なので、都会から来られたのかと思いました。夏輝くんは何年生なんですか」
美月さんが聞いてくる。
「高二です」
「そうなんですか。私も高二なんです」
美月さんの表情が明るくなった。
「え。
年は近いだろうと思っていたが、同じ高校生なのが意外だった。
「私の
「そうなんだ」
美月さんは、うちの学校の女子達とは、少し違っていた。
とても
それに、まだ高校生なのに家のために働いているなんてしっかりしていると思う。
ご両親がいない理由は
代わりに、もう一つ気になっていたことを
「あの。さっき現れた
宿禰さんが茶碗と箸を置き、顔を上げた。
「あれは人々の信仰を失った落ちぶれた神に、
「
「
「
宿禰さんと千鶴子さんがかわるがわる教えてくれた。
お腹がいっぱいになったのだろう、俺の隣ではつづらが
「そうなんですか。俺のいた世界では、物の怪や幽霊は物語の中のファンタジーでしかありません」
「そうか。しかし、
つまりこの世界では、いつ化け物に
「夏輝くん、大丈夫ですか。さっきから顔色が悪いような気がしますけど……」
美月さんが心配そうに言った。
「俺、まさか、家に帰れなくなるなんて思いもしなくて。それに、この先ここでやっていけるか心配になって」
深まる夜に心細さが増してゆく。
「
千鶴子さんが
「うむ。あまり深刻になりすぎず、肩の力を抜くことじゃ」
宿禰さんが、「さて、そろそろ
【後書き】
※ばい貝はとても美味しいのですが、
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